変化する日本の倫理

《親が子どもを殺すのと、子どもが親を殺すのとでは、どちらがより悪いか?》
中学教師をしている友人が、生徒にこんな質問をした。すると、ほとんど全員が、「親が子どもを殺す方が罪深い」と答えたという。五十歳代の私自身もそう感じるから、これはおそらく日本人の平均的な倫理感になっていると言っていいのではないか。
ところが、わが国の刑法には、かつて「尊属殺人罪」の規定があった。親殺しは、普通の殺人よりも重く罰せられたのである。

「尊属殺(そんぞくさつ)とは殺人を行った者から見て、両親や祖父母などの祖先にあたる親族、つまり尊属を殺害することである。かつて日本では、通常の殺人罪の規定に加えて、尊属殺を犯したものに対して重罰にする規定(尊属殺人罪)を刑法200条で規定していたが、1973年4月4日に最高裁により違憲であるとされ」、「尊属殺人罪の条文は以後22年間にわたって死文化されたまま刑法の条文中に残った。(略)1995年に刑法が改正され、条文が文語体から口語体に変更されると同時に、尊属殺人罪だけではなく尊属傷害致死罪・尊属遺棄罪・尊属逮捕監禁罪も含めたすべての尊属加重規定が削除された。」
ウィキペディア「尊属殺」http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B0%8A%E5%B1%9E%E6%AE%BAより)
一方、子どもや孫など、いわゆる卑属に対する犯罪行為は、親や祖父母に懲戒権があるとの考え方から、その処罰が軽減されるのが普通だった。
つまり、かつての日本では、親が子どもを殺した場合は、通常の殺人よりも情状酌量されたが、子どもが親を殺すなどということは、考えるのも恐ろしい悪の極みとされていたのである。
この点で、日本人の倫理は180度逆転したことになる。
しかしこのことは、たんに「逆転した」などと言って済まされない、重大な問題を提起している。
(つづく)