国際刑事裁判所(ICC)が扱うのは、02年の裁判所「ローマ規程」発効後の犯罪に限られる。これは、法律が存在しなかった時期の犯罪を処罰できないという「遡及処罰の禁止」、「事後法の禁止」にかかわる当然の原則だ。では、20年前、30年前に実行された拉致は対象外なのか。
そうではないはずだ。なぜなら「拉致は現在進行形の犯罪」だからである。どの時点で連れ去られたにかかわらず、現在も拉致被害者は自由を取り戻していない。それどころか、生死の消息や所在すら明らかになっていない。
ICCローマ規程にある「強制失踪」の定義をもう一度読んでみよう。
「人を逮捕し、拘禁し、又は泣致する行為であって、その自由をはく奪していることを認めず、又はその消息若しくは所在に関する情報の提供を拒否することを伴うものをいう」。まさしく、現在の拉致被害者が置かれている状況ではないか。
この解釈にはさらなる裏づけがある。1992年12月、第47回国連総会で、「強制的失踪からすべての個人の保護に関する宣言」が採択された。これは「強制失踪」が「人道に対する罪」であることを、ICC規程に先立って初めて宣言したものだ。その第17条にこうある。
「強制失踪を構成する行為は、犯人が失踪した個人の消息や所在を隠蔽し続けており、そのためにこれらの事実が不明にとどまっている限り、継続している犯罪(continuing offence)であるとみなされるべきである」。(訳は中野徹三氏)
非常に明瞭である。「現在進行形の犯罪」という、日本の拉致被害者救出運動が到達した認識とぴったり一致している。
国際法において、「強制失踪」という概念は、近年急速に重視される傾向にある。去年の国連総会では、「強制失踪防止条約」(強制失踪からのすべての者の保護に関する国際条約)が採択された(06年12月20日)。外務省は「日本を含む103カ国が共同提案国となっていることからも、国際社会のこの問題への関心の高さがうかがえるでしょう」と説明しており、日本政府は非常に前向きに取り組んでいるとアピールしている。(http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/pdfs/shomei_24.pdf)
さらに、齋賀富美子人権大使が、このほどICC(国際刑事裁判所)の判事になった。ちょうど、齋賀大使が13日の国際シンポジウムに見えていたので、私は早く拉致問題をICCに提訴しましょうと提案してみた。
(続く)