揺れる日本語 「オー」! 

先日、藤堂(とうどう)さんという方と名刺を交換した。名刺の裏のローマ字を見て、ここまで来てしまったか、と驚いた。TOUDOUと記してあったのだ。
「佐藤」さんのローマ字表記は通常SATOだが、数年前からSATOHと書かれた名刺をちらほら見るようになった。今や、SATOUまでありということなのか。
仮名で「おう」と書けば長母音「オー」と発音する約束事になっている。これもきのう書いた長母音「エー」と同様、漢語の導入と関係していて、和語の「大(おお)きい」、「通(とお)る」は例外となる。また、「思う」などは「オモー」とは発音しない。
ローマ字化の過程で、発音どおりに記すことになって、「オー」は、訓令式ではOの上に横棒をつけることで表した。また、いま優勢になったヘボン式ではOだけで「オ」も「オー」も表すことにした。ここで仮名表記とローマ字表記はいったん乖離する。この点、「エ」の長母音は、EIと仮名と同じ表記になって運命を異にした。
読売ジャイアンツの王選手の背中にOHと書かれていて、学校で習ったのと違うな、と不思議に思ったり、エビスビールがどうしてYEBISUとYがつくんだろうと疑問になったりするが、ローマ字導入の歴史は外圧への抵抗と追随を見るようで、実に興味深い。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%9E%E5%AD%97
このローマ字表記がいま揺れている。
訓令式が標準のはずなのに、外務省は旅券記載においてはヘボン式を採用するという捻れが起きた。さらに、2000年4月1日から、旅券氏名の表記にOHの記載も認められるようになって混乱に拍車をかけた。
個人的にはOHは使いたくない。英語で“Oh!No!”は「オー、ノー」ではなく、あくまで明確な二重母音で「オウ、ノウ」と発音される。英語圏の人は、「サトー」でなく「サトウ」と発音するはずだ。OHはいかにもアメリカ迎合である。
一方SATOUは、明らかにワープロの影響であろう。「佐藤」という文字に転換するためには、ローマ字でSATOUと打たなくてはならない。ワープロ文化が言語に影響をおよぼす例である。
私はとりあえず、Oで「オ」と「オー」の両方を示すことでいいではないかと思う。
京都、教頭、巨都、挙党をみなKYOTOと書いても困らないはずだ。ローマ字表記で問題になるのは固有名詞だけで、名前や地名は独特の読み方が許される。かつてREAGANを、はじめ「リーガン」と新聞が書いて後に「レーガン」に直したが、アメリカ大統領の名前の発音を間違ってしまうほど、固有名詞の発音はまさに固有なのだ。
それにしても、将来、「東京」をTOHKYOHとかTOUKYOUなどと書かれた地図が出現してもいいんですか、みなさん。