フィンランド・ショック1

ムーミンで知られる北欧の国が注目されている。
国際的な学習到達度調査(PISA)の結果が4日発表になって、「フィンランドに学べ」という声が一斉に上がっているのだ。
PISAとは、「義務教育の知識を実生活で活用する能力を評価するテストで、15歳を対象に2000年、03年に続いて3回目となる今回の06年調査は、57カ国・地域で計約40万人、日本では約6000人が参加した。出題は「読解力」「数学的応用力」「科学的応用力」の3分野で、今回は科学的応用力を重点評価した」(西日本新聞)。
この調査は、もともとは競争のために始められたのではないのだが、各国は結果に一喜一憂し、前回に比べて順位が下がった国では、さっそく政府の責任追及がはじまっているという。
フィンランドは、科学的応用力が1位で、数学的応用力と読解力が2位。前回に続き総合でトップだった。
韓国、台湾、香港などもトップグループだが、厳しい学歴社会で教育ママだらけのこれらの国の成績がいいのは当然のような気がする。しかし、フィンランドは受験戦争と無縁で、塾もないし、宿題もあまり出ないというのだ。「それなのに、どうしてフィンランドが?」と、世界中にショックを与えている。いまフィンランドには教育視察団が押し寄せているという。
実はフィンランドの子どもたちの「頭が良くなった」のは、そんなに昔のことではない。
ソ連と経済的に密接な関係にあったフィンランドは、91年のソ連崩壊で、失業率は20%に達し、深刻な経済難に陥った。人口500万人の国を立て直すには教育しかないと、大改革に乗り出した。教育大臣になったヘイノネン氏は当時弱冠29歳。首相も35歳の若さだったから思い切ったことが出来たのかもしれない。
その改革が実を結んだ。携帯電話の「ノキア」に代表される最先端のIT産業を、日本の20分の1の人口で維持している背景には、若い層の知的能力の引き上げがあると言われる。
ヘイノネン教育相が行なった重要な改革は、教育現場=教師に大幅な裁量権を与えたことだった。指導要領を3分の1にし、テキストも授業の進め方も教師が自由に決めるようにした。そんなことをしたら、教師の力量の差が、学校ごと、クラスごとの格差を生んでしまうのでは、と心配になる。
だが結果は逆だったようだ。フィンランド自身がこう分析している。
フィンランドが好結果を得られた背景には、生徒の成績のばらつきが少ない点にある。他のOECD加盟国に比べると、下位グループに位置する生徒の数が少なく、PISA調査に参加した他のどの国よりも学校間の得点差が小さかった」(フィンランド大使館のホームページより)。
これが可能なのは、非常に質の高い教師を現場に配属する制度があるからだと思う。教師になるには大卒だけではダメ。全員修士号が必須で、半年という長い教育実習が義務付けられている。これほど大変な教師への道なのに、教育学部に入ることができるのは希望者のわずか1割。教師は、社会的に尊敬を受ける人気の職業で、選び抜かれた人材がなっていくのだ。(参考:NHK−BSの取材)
さらに、図書館の数は人口比で日本の7倍。教育は無償で1クラス20人と、教育システムに構造的な違いがあり、日本が急にフィンランドのマネをすることは無理だ。
ただ、フィンランドが90年代初頭に、国難をチャンスに変えた、果敢な決断には大いに学びたいと思う。
そして、フィンランドの成功は、教育分野に留まることなく、国家の針路という重大な問題を我々に提起しているのである。(続く)