世界を変えるロック歌手

評論家の三浦小太郎さんが、ホームレスの自立支援をしている雑誌『ビッグイシュー』に載った、ロックミュージシャン、ボノ(U2)のインタビューが大変いいとメールで教えてくれた。
恥ずかしながら、私はボノを知らなかったが、この人、もう長いことアフリカのエイズや貧困の克服のために力を注いでいるそうだ。さっそく、U2のCD ”U2-The Best of 1980-1990”を借りてきて、ボノのボーカルを聞きながら今これを書いている。
ボノは8年前、1年かけて自らアメリカ下院のほとんどの議員に会って説得し、貧しい国への債務帳消しを実現している。状況を変えようという強烈な意思を持つ人である。

7月7日、地球温暖化防止を訴えるライブアース・コンサートが、世界9都市で同時開催され、日本のコンサートをテレビで見たのだが、アーティストたちが、決まったように「無理なく、一人ひとりができることをやっていきましょう」と呼びかけていた。ここには世の中を動かすことへのリアリティが完全に欠如している。こんなメッセージで満足している日本のアーティストたちとは、ボノは比べ物にならない。「一人ひとりができること」ではぜったいに事態は動かない。ボノがやっているように、国家の政策を変えなくてはならないのだ。

さて、数多くの政治家に接してきたボノが、「ビッグイシュー」のインタビューでこう言っている。
「政府指導者と会話をする中で、そのうわべに隠れた理想主義を発見する事がよくあるんだ。何とかしてそれをもう一度引っ張り出したいね」
全く同感だ。私も職業柄、普通は会えないような地位の高い人を取材したりするが、この「理想主義」を垣間見ることがある。それを見ることは、人の世に希望を抱かせる。
ボノにも、これに感動して私たちに教えてくれた三浦さんにも感謝したい。こうして感応の輪が広がっていく。

三浦さんは、最近のメルマガで、以下のような文章を書いて、去り行く安部晋三氏に感謝をささげている。さきのボノインタビューの精神を引き継ぐような文章である。

「安倍首相は、官房長官時代だったかな、日本在住の脱北者の方々(元帰国者)と一度会っていただいたことがあります。そのとき、脱北者やわたしたちの声に真摯に耳を傾けてくれました。そこでの姿勢は大変誠実で、ただ漫然と聞くのではなく、一言一言の訴えにきちんと受け止めてくださっていたと確信します。私は一言だけ、拉致被害者の救援が最大の優先事項であることは勿論ですが、日本人妻のことも是非公的に北朝鮮に呼びかけてください、と申しました。『日本政府は何もしていないわけではないけれども、もっとその問題も取り組まなくてはいけませんね』と言う趣旨のお答えをいただいたと記憶しています。こうして書くとちょっと官僚答弁に聞こえるかもしれませんが、言葉に込められた意思はきちんと伝わってきました

北朝鮮人権法についても好意的に語られ、かつ同時に、アメリカの人権法も必ずしも評価するだけではなく、その限界も認識されているように見えました。この時、ああ、この方は一般に思われているような単純なタカ派政治家では全くなく、現実をきちんと見る目を持っているんじゃないかと思い、この方が総理になって欲しい、微力ながら支持したいと当時ははっきり思いましたし、そう語ったこともあると思います。

平壌での最初の日朝首脳会談での功績は今更言うまでもなく、皆様には充分ご存知でしょう。拉致問題に賭ける安倍首相の意志は本物だったと私は今でも思います。ただ、これはブッシュ大統領もそうですが(ブッシュ氏の金正日を個人的に許せないと言う意志は今も変わらないでしょう)その意志を政策に生かすのが如何に難しいかということを示したのは、安倍首相が私たちに教えてくれた残酷ではあるけれども最も大きな教訓だったのかもしれません。

安倍首相へ、私は戦後レジームの根源からの見直し、その超越と新しい価値観の確立という基本理念は私はこれからもずっと支持していきます。そのことを明確に語ってくださったこと、平壌拉致被害者を救うために一歩も引かなかったこと、この2点は必ず歴史に明確に残るでしょう。今はただご静養ください。理念を引き継ぐもの、北朝鮮と戦い続ける人々は必ずこれからも続きます。」(少し字句を修正しました−高世)

三浦さんは強烈な安部総理批判も行ってきたが、世間に安部非難の声ばかりが溢れる今、あえてこういう文章を公にすることは文筆家として立派である。改めて尊敬の念を持った。