リビア紀行―人民はパートナー

(取材に関る内容は放送後に回して、とりあえずリビア雑記を書く)
昨夜、アリタリア航空ローマ経由でトリポリ着。革命38周年の記念日(9月1日)で取材ビザが下りた。
見回すと、空港建物の壁がどこまでも緑色だ。同行していただいたジャーナリストの平田伊都子さんによると、これがリビア革命の色だという。そういえば、この国の国旗は、模様も文字もない緑一色なのだった。
―「われわれが進むべき道は、資本主義でも共産主義でもない。第3の道でなければならない。」カダフィはこれを「第3普遍理論」と名づけ、アラブ民族主義理念の構築にとりかかった。―(平田伊都子『カダフィ正伝』(集英社)より)
こうして、1969年の革命(実際はクーデター)のあと、革命の方向性を模索したカダフィは、75年に「第3普遍理論」をまとめた『緑の書』(第1部、民主主義)を発表した。『緑の書』はさらに第2部で新社会主義経済理論、79年発表の第3部で創造的な人間の生き方を説いて完結した。空港のキオスクに各国語の『緑の書』が置いてあったので、英語版を買った。本の裏表とも緑一色で、金色の文字で『THE GREEN BOOK』とある。どこか聖書といった趣きがある。
内容は実にラディカルで、たとえば、「議会制度は、民主主義の問題への不自然な解決策である」「政党は独裁の現代的形態である」などと書かれてある。そして、カダフィは、政府、国会や政党など既存の制度を廃止し、直接民主主義を標榜することになる。もっとも、実際には政府や国会に似たようなものがあって、お題目だけという面があるのだが・・。
翌日町に出ても、何かと緑が目に付いた。家の扉が緑であり、モスクの屋根も緑、服も緑を着ている人が多い。
―「緑という色は『天国』『成長』『春』の象徴だ。もし緑の世界を創造することができたら、戦争など存在しなくなる」―(『カダフィ正伝』)
このあたり、カダフィという人は、思いつきの革命家という感じがする。

さて、空港の入国手続きに並んでいると、英語で『Partners Not Wage Workers』というスローガンが掲げてあった。「賃金労働者ではなくパートナー」。雇う、雇われるという関係を否定して、みんなが主人公ですよという理念なのだろう。いきなりこんなのに迎えられると、異色の国に来たという気がして、ちょっと嬉しくなる。
入国審査の列がなかなか進まない。イミグレーションのブース付近に多くの人々がたむろしている。サンダル履きだが、ブースの中の係官とおしゃべりしているから、みな入管の役人仲間なのだろう。こちらがいらいらして待っているのに、係官たちは仲間と冗談を言い合って楽しそうである。これが「パートナー」ということなのか?
パートナーだとすれば、身分保証があって卑屈にならないですむ。しかし、一方で、業務上の指示命令を遵守するとか、他人に奉仕するという精神は希薄にならないだろうか。
実際、ホテルではサービスの悪さが目に付いた。私の部屋はトイレの水が流れず、カメラマンのI君の部屋はシャワーからお湯が出ない。毎日朝夕フロントに苦情を言うのだが、最後まで直そうとしなかった。ビジネスセンターのインターネットがつながらないと訴えると、決まって「明日には直ります」との答え。これも結局つながらないままだった。
誰も責任を取ったり、謝罪したりしないのは、かつての社会主義を思い出させる。人民がパートナー=主人公になるというのは、簡単なことではない。