米国にとってのイランと北朝鮮

去年12月にイランを訪問して驚いた。
ブッシュが北朝鮮と並べて「悪の枢軸」と呼んだ国だというので、恐る恐る行ったが、拍子抜けした。

選挙期間に現地に入った。
意外にも取材はいたって自由だった。
政府に閉鎖された新聞社も撮影できたし、その社主までがインタビューに応じた。
首都テヘランの市議会は定数15議席。それに立候補したのがなんと1300人超だった。100倍近い競争率である。ただ、そのうち改革派を中心に100名以上が「資格なし」とされて立候補できなかった。これは深刻な政治的自由の侵害だし、他にもいろんな問題が山のようにある。
問題はあるのだが、しかし、基本的な自由・人権の面で、北朝鮮とは比較にならない。取材した後の結論は、イランは「中東の北朝鮮」ではなく、「悪の枢軸」などと呼ぶのはふさわしくないということだった。
核問題にしても、北朝鮮核兵器をどんどん作ると公言したあげく実際に核実験まで行った。これに対して、イランは平和利用しか望んでいないとして核兵器開発の意図を繰り返し否定し、IAEAの査察も受けている。北朝鮮の方がはるかに危険であることは議論の余地がない。
ところがアメリカは、去年暮れから北朝鮮には微笑外交へと切り替える一方、イランには相変わらずの強硬路線で応じている。

アメリカの次期大統領はどんな外交政策を採るのか。
共和党の大統領候補の一番手、ジュリアーニニューヨーク市長が最近、外交政策を発表したというので読んでみた。「現実的な平和に向けて」(Toward a Realistic Peace)と題する論文である。彼によれば、次期アメリカ大統領は、三つの外交政策上の挑戦に直面するという。
第一にして最大の挑戦は、グローバルなテロリストとの戦争における勝利の道を示すこと。第二は、テロリストが破壊しようとする国際シムテムを強化すること。第三は、このシステムの恩恵を拡大することである。そして、その実現に最も効果的な手段は、より強力な国防力を築き、決然たる外交を展開し、アメリカの経済的・文化的影響を拡大していくことだという。その結果として、永続的で現実的な平和の基盤を作ることができると結論づけている。
保守派の面目躍如なのが、イラク戦争に対する評価だ。
ジュリアーニによれば、ベトナム戦争の教訓は、1972年にはベトコンを打ち負かすことに成功していたのに、アメリカが支援をやめたため、北に南を占領させてしまったことだ。そのためにカンボジアでは虐殺が起き、ロシアの拡大主義を助長した。この過ちを繰り返してはならず、イラクを放棄することは許されないと主張する。
イランに対しては、あくまで強面で通す。
「イランの宗教支配者は、我々がニンジンだけでなく(叩く)杖も使えるということを理解する必要がある。それは、体制への人民の支持を掘り崩し、イラン経済に打撃を与え、イラン軍を弱めるだろう。少なくとも、核施設だけは破壊するだろう」。露骨な軍事攻撃の脅しである。
こうした中東政策は、「イスラエルの安全保障に対するアメリカの支持は、我々の外交政策の永久の特徴である」という主張に裏付けられている。ジュリアーニが大統領になっても、イラン主敵論には変化がなさそうだ。
民主党はどうかと言えば、実は共和党よりイスラエルとのつながりが深い。だから、ヒラリーあたりが当選しても、やはりイランに対しては強硬路線を緩めない可能性がある。
今年3月中旬、ワシントンDCでユダヤ人圧力団体AIPACの政策会議が6000人を集めて開かれた。チェイニーだけでなく、下院議長のナンシー・ペロシ(民主)も挨拶で演壇に立ち、上下院議員のほぼ半数が参加した。アメリカ政治におけるユダヤロビーの存在感は圧倒的である。民主党共和党いずれが勝っても、イスラエルの安全保障が優先される中東政策が展開されるはずだ。
そしてジュリアーニの論文には、最後まで北朝鮮は登場してこなかった。アメリカでは北朝鮮への関心は非常に低い。アメリカの対北朝鮮政策が大きくぶれるのは、「どうでもいい」からなのだろう。アメリカにとって東アジアには「イスラエル」はないのだから。