金正日が命じた映画監督拉致が映画に

takase222016-09-25

今月は異常に台風と雨が多い。各地で土砂崩れなどの災害が起きている。熊本地震の被災地などでは不安が募ったことたろう。お見舞いもうしあげます。
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トラブルというのは同時にいくつも重なるようで、このところ、かなりストレスフルな日々だった。そして、大声で人を罵ってしまった。こういうのはかなり久しぶり、もしかすると十数年ぶりかもしれない。
昔は人の好き嫌いが激しく、人を嫌いになるとすぐ「殺したい」と思ったものだが(もちろん殺さないのだが)、二十数年の「修行」のおかげで、最近は、嫌いな人がゼロではないがほとんどいないというところまでになっていた矢先だった。
怒鳴ったあと反省した。自分の思いどおりにいかないからといって怒るのはやはりいけないな。心が非常に荒れて、嫌な気持ちがずっと後を引く。大乗仏教で「憤り」が根本煩悩の一つになっているのが分かる。気を入れて坐禅しよう。

「憤り」がいけないなら、なぜお前は、北朝鮮による拉致やいまだに解決をみない水俣病問題に怒っているのか、それも煩悩ではないか、と反論がきそうだ。
私の理解では、自分の都合で怒る「私憤」は煩悩だが、「公憤」、「義憤」はよいのだ。「義憤」には「慈悲」がベースにあるから。つまり、その怒りは自分の都合からではなく、みんなが(衆生が)苦しむことへの救済の願望から発している。
ベトナム戦争中、何人もの僧侶がガソリンをかぶって抗議の焼身自殺をとげたが、その心は義憤でいっぱいだったのではないだろうか。
大乗仏教では慈悲を強く打ち出しているはずだが―ベトナムも大乗―、日本の仏教者が、義憤をもとに行動を起こすことがないのはいかがなものか。
話が日本の坊さん批判になってしまったが、日々の私憤に引きずり込まれることなく、義憤だけで生きていけるようになりたいと思う。
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きょう封切りしたばかりの映画『将軍様、あなたのために映画を撮ります』(原題:The Lovers and the Despot、恋人と独裁者)を観てきた。
1978年に北朝鮮に拉致された韓国の映画監督、申相玉(シンサンオク)と女優、崔銀姫(チェウニ)の数奇な運命を、崔銀姫の語りと子どもや元CIAなど事件関係者の証言、そして二人が秘密で録音した金正日の肉声で描いた映画である。
【二人は金正日に忠誠を誓い信頼を得ていった】
【チェウニは韓国映画の大スターだった】
この拉致事件については、このブログで何度か触れているが、映画好きな金正日が、立ち遅れた北朝鮮の映画の水準を上げようとして「連れてこい」と直接に工作機関に指示したことをその秘密録音のなかで告白している。
手元に人材がいないなら、外から強制的に連れてくる。人間をモノ同然に扱う。これが北朝鮮による拉致の本質なのである。
http://d.hatena.ne.jp/takase22/20080311

【1978年2月、香港から真冬の南浦(ナンポ)港に着き、俯いて放心状態の崔銀姫と出迎えたリウォンギ対外情報部長(彼女の拉致を担当した部署の責任者)。金正日も出迎えてこのあと握手している】
申監督は、北朝鮮で逃亡を図り、5年収容所に入れられたのち、指導者同志に「忠誠」を誓って崔銀姫とともに映画作りに邁進。3年足らずで17本もの映画を製作していくつもの国際映画祭で高い評価を受け、金正日の信頼をかちとったあと、映画祭出席のために訪れたウィーンで米国大使館に逃げ込んで北朝鮮から脱出することができた。
拉致から脱出までの8年間を、拉致された本人の証言(10年前に亡くなった申監督は、生前のインタビュー音声)をもとに描いたという意味では初めての映画だろう。全体主義という体制の異常さ、恐ろしさを生々しく見せてくれる。
http://www.huffingtonpost.jp/2016/09/04/shin-sang-ok-choi-eun-hee_n_11854332.html
この映画を作ったのは、イギリスのドキュメンタリー監督ロス・アダムとロバート・カンナンで、「金正日は知っていた。北朝鮮という国家については、恐ろしく思う反面、魅了されている部分もあった。だが、申相玉崔銀姫についてはこの話を聞くまで、全く知らなかった。映画制作の世界の出来事で、これほどロマンチックなストーリーは、我々が映画を好きになって以来、初めてといえるほどだった」映画製作の動機を語っている。
「ロマンチックなストーリー」・・・我々とはかなり受け止め方が違うものである。本来、この映画は、イギリス人によってではなく、日本か韓国で製作されるべきだったと今になって思う。
この映画はこれから全国上映がはじまるが、米国でも同時に封切られていることを、旧知の産経新聞記者、中村将さんが書いていた。
【ロサンゼルス=中村将】《北朝鮮による韓国人女優と映画監督の拉致事件を扱ったドキュメンタリー映画「The Lovers and the Despot(恋人と独裁者)」の上映が23日、米ロサンゼルスやニューヨーク、首都ワシントンなどの一部の劇場で始まった。》
http://www.iza.ne.jp/kiji/politics/news/160924/plt16092419300013-n1.html
極東では有名なこの拉致事件は、欧米ではほとんど知られていない。拉致問題の国際的啓発には絶好の材料だ。多くの米国人に観てもらいたい。