アフガンで進退窮まったアメリカ

オバマ大統領の支持率がどんどん落ちているという。
アフガンへの戦略を打ち出せないことが大きな理由の一つだ。
カルザイは選挙なしに当選が決まった。公正な選挙で政府の正当性を示すことに失敗した。「選挙はやらせない」と宣言していたタリバンの勝利ともいえる。
アフガニスタンカルザイ大統領は3日、大統領選挙で再選されたのを受けてカブールで初の記者会見を行い、内外で批判にさらされている政府の腐敗について、「根絶に向けて真剣に努力する」と述べ、汚職など腐敗の撲滅に新政権の優先課題として取り組む考えを強調した。
 政府の腐敗はアフガン復興の最大の阻害要因の一つとされ、オバマ米大統領は2日、カルザイ氏に祝意を伝える一方で、腐敗根絶に努めるよう求めていた》(時事11/3)
カルザイの周辺や親族は汚職や麻薬ビジネスで腐敗しきっており、現政権が「浄化」される見込みは少ない。アメリカは祝意を伝えたが、内心は不信感でいっぱいだ。
現政権とアメリカとの連携に疑問符が付いてきた。
カルザイ側も、アメリカの傀儡と言われるのが一番の弱みで、人気取りのためにはカッコ付きの「自立」志向も見せ始め、アメリカに盾突くことも多くなっている。ベトナム戦争末期の南の政権もアメリカとギクシャクしていた。
さらに、この記者会見では、カルザイタリバンに「兄弟」と呼びかけた。
カルザイ氏はまた、「タリバンの兄弟たちに家に帰るよう訴える」と述べ、反政府勢力タリバンとの話し合いによる和平を模索する考えを示した。同氏は最優先の公約として、タリバンなど武装勢力のうち、穏健派との和平交渉本格化を挙げていた》
タリバンに敵対する姿勢では、政権が持たなくなっているということだ。アフガンの安定の前提はタリバン打倒にあるという「国際社会の常識」がここで通用しなくなっていることが分かる。
だが、日本の新聞はまだ、「タリバン勢力の一掃」という実現不可能な目標をかかげている。
今日の産経の社説から;
《今は国際社会が総力を結集し、アフガンの国家再建を支えるべきだ。
米軍は、2001年の9・11米中枢同時テロを引き起こした国際組織アルカーイダをかくまうタリバン政権を崩壊させた。しかしタリバン勢力は徐々に勢いを取り戻し、テロ犠牲者はここ数カ月、過去最悪ペースで増加している。
 治安悪化が各国の支援による復興を妨げる。悪循環を断ち切るためには、やはり根源のタリバン勢力を一掃するしかない》
そもそもタリバンとは、パシュトゥン人を基盤にする土着ムスリムで、ニューヨークやパリでテロをやろうという勢力ではない。この事実認識が、今の議論からはすっぽり抜け落ちているのだが、それは置いておこう。
なぜ、「反米」がますます支持され、タリバンが増殖するのか。米軍が一般民衆を大量に殺し続けているからである。先週、国連でも米軍の「無差別殺人」が問題にされていた。
《国連のアルストン特別報告者(処刑問題担当)は27日、ニューヨークの国連本部で記者会見し、米軍がアフガニスタンなどで行っている無人機による空爆は多数の民間人犠牲者を出しており、無差別殺人を禁じた国際法違反の可能性があると語った。
 同報告者は、このところアフガンとパキスタンで米軍無人機の使用が増加していると指摘。その上で、「わたしの懸念は、無人機が国際人道法や国際人権法に完全に違反して運用されている可能性があることだ」と述べた。
 無人機による空爆は国際テロ組織アルカイダや反政府勢力タリバンを標的にしているが、民間人が巻き添えになるケースが頻発し、駐留外国部隊に対する地元の反発につながっている》(時事10/28)
アメリカは八方ふさがりで、すぐには解決策が見えない。
オバマ大統領は、アフガンこそ《対テロ戦争の主戦場》だと宣言してしまった以上、すぐには引けない。今引いたら負けを認めてしまい、これまでの米兵の犠牲は何だったのか、戦争の大義が問われる。
1万人、2万人と少しづつ増派して深みにはまる策に傾くのではないか。
そうなれば、戦乱は終わることなくさらに多くの人びとが傷つく。
そして、アメリカを「治療」しようというオバマの壮大な計画も実行できなくなるかもしれないと私は懸念している。