権力の闇をえぐる映画「暗殺」

takase222008-01-11

すさまじいドキュメンタリー映画を観た。「暗殺・リトビネンコ事件」(http://litvinenko-case.com/)である。
リトビネンコとは、元FSB(KGBの流れをくむ「ロシア連邦保安庁」)の将校で、一昨年の11月、亡命中のロンドンで、何者かにポロニウム210という特殊な放射性物質を飲まされて暗殺された。
アメリカがイラクで「テロとの戦い」を遂行している一方で、ロシアも「テロとの戦い」をチェチェンでやっている。だが、その内実は、民族浄化といってもよい残虐な作戦である。
プーチンは小さいころからの憧れだったKGBに入り、その後身のFSBのトップにまでなった。そして、プーチンの政権は、情報機関の謀略によって支えられているという疑いがある。
無名だったプーチンが、国民的な支持を一気に集めることに成功したのは、チェチェン戦争のおかげだった。この戦争自体が権力の謀略によって開始された。それをFSB内部から暴露したのが、他ならぬリトビネンコだった。リトビネンコ自身、大物政治家の暗殺を指令されていた。映画の原題は「REBELLION」、つまり「反逆」「反乱」である。リトビネンコは、国家権力を相手にたった一人で反逆を企て、つぶされていった。
リトビネンコ暗殺の前月の10月には、プーチン政権を激しく糾弾してきた急先鋒のジャーナリスト、アンナ・ポリトコフスカヤが自宅エレベーター内で射殺されている。リトビネンコはこの事件の真相を追い始めていた矢先に暗殺された。
つまり、リトビネンコ暗殺には、ロシア権力の闇が集約されているのである。
監督のネクラーソフ氏がアンナ・ポリトコフスカヤをインタビューした後に彼女は殺され、リトビネンコを取材した直後に彼が倒れるという緊迫の事態のただ中を撮影が進んでいく。毒を盛られたあと、リトビネンコは23日病床にあったが、カメラはそこにまで入り、瀕死の彼と必死で看病する妻を映す。尋常ならざる映像の迫真力に感嘆し、政治の闇の深さに悪寒が走る。
リトビネンコは死の2日前、遺書を作成していた。遺書にはこうあったという。
「冷酷者プーチンよ、あなたは一人の人間を黙らせることに成功したかもしれない。だがプーチンよ、あなたの耳には終生、世界中の人々の抗議の声が響き続けよう。あなたは、自らの野蛮で冷酷な一面を示したのだ」。
日本ではほとんど報じられない、しかし深刻極まりない事実に呆然とさせられた。