150年ぶりに再会したみほとけ

 節季は処暑(しょしょ)を過ぎて白露(はくろ)になる。

 昼夜の温度差が大きくなると朝夕に霧が降りるようになり、この霧が白露とされる。

 初候は7日からで「草露白(くさのつゆ、しろし)」。
 12日からが次候「鶺鴒鳴(せきれい なく)」。
 18日からが末候「玄鳥去(つばめ、さる)」。
 いよいよ実りの季節でもある。

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 雨が続いて自転車に乗れなかったが、今日は久しぶりに晴れたので、東京薬用植物園へ。

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シオンの花にとまるイチモンジセセリ。昆虫も多い

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ニチニチソウ白血病抗がん剤になるという。

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昔からゲンノショウコは下痢の民間薬で知られているが、可憐な花を咲かせている。

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オミナエシが秋の訪れをつげる。

 この植物園はたくさんの季節の草花を鑑賞できる、私にとっては癒しの場だ。無料というのもうれしい。アキアカネが飛んで、もう秋である。いい時間を過ごせた。

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 「聖徳太子法隆寺」と同じ東京国立博物館で、ちょうど特別展「国宝 聖林寺十一面観音 – 三輪山信仰のみほとけ」もやっていたので、これも観てきた。この像が奈良県から出るのは初めてらしい。

 実はこの十一面観音について無知のまま観たのだが、すばらしかった。ポスターにあった「日本彫刻の最高傑作」との表現がすなおに納得できる。

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十一面観音像

 興味深いのは三輪山信仰のみほとけ約150年ぶりに再会」という標語。

 この十一面観音像は、奈良県桜井市三輪山御神体とする大神(おおみわ)神社に付属する寺、大神寺(のちに大御輪寺と改称)にまつられていた。

 ところが明治時代の神仏分離廃仏毀釈の危機にさらされ、その寺の仏像は大神神社から追い出された。十一面観音像は近隣の聖林寺に引き取られたが、そのとき国宝 地蔵菩薩像(法隆寺蔵)、日光菩薩立像、月光菩薩立像(奈良・正暦寺蔵)とばらばらに別れた。これらが今回、東京で「再会」したという

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国宝地蔵菩薩

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月光菩薩立像(左)、日光菩薩立像(右)

 千年以上の「神仏習合」という日本の伝統を明治政府が否定したことで、日本中で無数の貴重な仏像、仏具、仏典などが捨てられ、燃やされ、二束三文で売り払われた。
 一部は海外に流れたりもしたが、十一面観音像などが何とか後世に残されたのは幸運だった。

 神仏分離神道をも歪めて、異様な国家神道への道を開いたのだった。
 会場には大きな鳥居が再現され、その前に十一面観音像が立っていた。神仏習合の時代がよみがえったかのように。

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三輪山は、山自体がご神体として古くから信仰されてきたという。行ってみたくなる。

 

あるフリージャーナリストの志

 先週木曜の9月2日、東京国立博物館聖徳太子1400年遠忌記念 特別展《聖徳太子法隆寺》」を観に行った。

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 聖徳太子は622年に亡くなっているので、今年は1399年目なのだが、遠忌(おんき)とは追善の年忌で、その数え方で1400年忌になる。、

 6月に奈良国立博物館で観てきたが、展示の数々が貴重なものばかりで、1回ではもったいない気がして、また観ることにしたのだ。

 自分にとっておもしろかったことの一つは、平安時代の保安2年(1121)の聖徳太子の500年遠忌に造立された聖徳太子像への見方が変わったことだ。

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500年遠忌に造立された聖徳太子

 これまでは、お顔の表情が険しくてあまり好きではなかったが、今回は、しっかり予習してから観て、イメージが変わった。

 この像の体内には観音菩薩立像が納められ、その頭の位置がちょうど太子の口元にくるように工夫されていた。また体内には、「法華経」、「維摩経」、「勝鬘経」という特に太子が重視した三つのお経も納められていた。

 太子の口は少し開いている。つまり、聖徳太子観音菩薩の化身として三つのお経を説いていることを示している。
 この事情をを知ってからこの像を観ると、仏法を説く迫真の表情だと見えてきた。売店で、はがき大の写真を買ってきて、いま机のそばの壁に貼ってある。

 

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夾紵棺断片(きょうちょかんだんぺん) 飛鳥時代・7世紀 大阪・安福寺蔵  聖徳太子の棺の一部と推測されている。7世紀、天皇や皇族の棺として、布と漆を貼り重ねて作った夾紵棺が使用されていた。普通にはカラムシという織物を30枚程度漆で重ねて作られているが、この断片は極めて珍しいことに絹を45層も重ねて作られており、密度が非常に高く仕上げられている。この棺に太子が納められたかと思うと感慨深い。

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 きのう安倍・菅政権によるマスコミへの圧力の一端を書いたが、問題はそれに抵抗せずに忖度に走る傾向が強くなっていることだ。
 そこで働く人々に、とても優秀でしっかりした立場のジャーナリストがいることは、これまで業界を見てきて知っている。以前ここで紹介した相澤冬樹さんもその一人だ。

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 しかし中には、はじめはまっとうに世の中に向き合おうとしたはずが、次第に企業人(社員、局員)として世慣れし、権力に迎合するようになる人も少なくない。
 
 多くの人が「ジャーナリスト」という言葉でイメージするのは、マスコミの記者ではなくフリーランスだろう。大企業のメディアによる報道に「体制」の影を見てしまう一方で、フリーには「志」を感じさせるからかもしれない。

 30年来の友人のジャーナリスト、樫田秀樹さんのFBを紹介したい。

https://www.facebook.com/hideki.kashida.kulleh


 私は一介のフリージャーナリストにすぎない。記事を書いたって世論形成するほどの影響力をもたない。だけど、原発のように爆発が起きたとか、外環道のように陥没したとか、入管で人が死んだとか、何か事故が起きてから、人が死んでから初めて報道する姿勢だけは有しまいと決めている。そういうことが起きないように警鐘を鳴らすことこそジャーナリズムの役目だからだ。

 今まで、マスコミが報道を展開する前に手掛けてきたのは、ハンセン病、リニア、入管問題など多々あるが、それでも、マスコミこそが警鐘を鳴らす調査報道をすればその力は大きいといつも感じる。

 さて、あれだけ真摯に原発問題の報道を続けている東京新聞も、ことリニアに関してはほとんどまったく報道していなかった。だが、昨日、その記者から、これからは(まずは神奈川県を軸に)チーム取材をすると教えてもらった。ついに、だ。

 きっかけは外環の陥没事故の取材から、同じ「大深度」「シールドマシン」「住民との溝」などの共通点をリニアに見出し、やろうとなったようだ。 

 東京新聞には継続取材を期待したい。


 フリーランスは企業ジャーナリストと違って、とっかかりの取材経費から経費をすべて自分で負担せざるを得ない。しかも、その取材が「売れる」かどうか、保証がない。雑誌がどんどん廃刊になっていく今は、収入になる発表の場も少なくなっている。ただでさえカネがないフリーが、大きなテーマで長期にわたって取材するのは非常に苦しい。

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 そのうえ、樫田さんが取り組むテーマは多くが権力と正面から対峙するものだ。商業ジャーナリズムが取り上げにくいネタである。この挑戦をつづける樫田さんの志を私も陰ながら応援している。

 樫田さんの著書には、ボルネオ島で先住民と一緒に暮らした経験をもとにした『9つの森の教え』というすばらしい本もある。日本人が近代化のなかで失った心豊かな人生を歩むための智慧がいくつものエピソードとともに明かされていく。

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樫田さんは、熱帯林伐採反対運動の活動家とみなされてマレーシア当局に入国を拒否されるまでになっていたので、この本は「峠隆一」の筆名で執筆している。

 こんどこの本の中身を紹介してみたい。

 

菅義偉氏の乱暴なメディア操作

 きょう、国立映画アーカイブの企画「逝ける映画人を偲んで」の映画を観てきた。

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京橋の国立映画アーカイブ。こんなに大きな京マチ子の写真が街頭にあるのがうれしい。

 これは「日本映画の輝かしい歴史を築き、惜しまれながら逝去された映画人の方々を、それぞれの代表的作品を上映することで追悼する」企画。ここ1〜2年で亡くなった映画人、大林宣彦宮城まり子宍戸錠、渡哲也、梅宮辰夫、高島忠夫などに縁のある55作品が上映された。

 5日のきょうは最終日で、京マチ子主演の『雨月物語』(溝口健二監督、1953年)と『大阪の女』(衣笠貞之助監督、1958年)の2本が上映された。シニア料金がなんと310円!ありがたい。

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 『雨月物語』では、亡霊となって男を誘惑。この世のものではない、文字通りの「魔性の女」を演じた。

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大阪の貧しい芸人たちが肩を寄せ合うように暮らす横丁に、あでやかに咲く花のような娘、お千。騙され、傷つけられても、お千はあくまで明るく、健気に生き抜いていく。さわやかな人情話。

 私にとっては、京マチ子ほど華のある、色っぽい女優はもういない。あらためてご冥福をお祈りします。

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 菅政権退陣を前に、備忘録として、いくつか振り返っておきたい。

 退陣を表明した菅氏は、安倍前首相と同じく、人事で首をすげ替え、組織を脅し上げる手法で知られる。あるテレビ番組で元総務大臣片山善博氏が、安倍・菅時代に霞が関(官僚機構)は平気で文書改ざんを行うまでに破壊されてしまったと嘆いていた。

 安倍・菅両氏は、マスコミに対しても手を突っ込んできたことで知られる。

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 菅氏が関与した「事件」で有名なのは、官房長官だったときのNHKクローズアップ現代」での出来事だ。
 国谷裕子キャスターに、安保法制に関して厳しく質問され、菅氏の要領の得ないダラダラした答えが尻切れのまま放送が終わりになった。ごまかしがきかない生放送で、ちゃんと答えられないのは自分の力不足なのに菅氏は激怒、国谷キャスターが理由も告げられず降板になった。

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 今年2月10日には、NHKニュースウオッチ9」の有馬嘉男キャスター(55)と、「クローズアップ現代+」の武田真一アナ(53)という“二大看板”の降板が発表された。局内では「菅政権の怒りを買った2人が飛ばされた」と見られているという。

 有馬キャスターの方は、昨年10月26日臨時国会開幕日、菅首相が生出演した際のやりとり。

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 日本学術会議をめぐる問題で、有馬氏が「国民は納得できる説明を求めている」としごく当然の質問をしたのに対し、菅首相がまともに答えないため、有馬氏が同様の問いを繰り返すと、菅氏はイラっとした様子で「説明できることと、説明できないことがある」と言った。菅氏の怒りが有馬キャスターを降板させ、パリに飛ばしたという。

 武田アナは1月19日放送の『クロ現+』で、自民党二階俊博幹事長をインタビュー。 

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クロ現予告

 新型コロナ対策について、武田アナが「政府の対策は十分なのか。さらに手を打つことがあるとすれば何が必要か」と、これまたごく常識的な質問をしたところ、二階氏が「いちいちそんなケチをつけるもんじゃないですよ」と不機嫌そうに答えた。首相の後ろ盾、二階氏の不興を買ったことで、武田アナは降板、大阪に単身赴任になったという。
https://bunshun.jp/articles/-/43713週刊文春より)

 菅氏のマスコミに対する脅迫事件とされるものは、民放を含めいくつもあるが、五輪を巡っても不可解な出来事があった。NHK世論調査の設問が全面的に変更された事件である。

 1月13日、NHK東京五輪・パラは開催すべきかの世論調査結果(1月9日~11日調査)を公表。「中止すべき」が38%、「さらに延期すべき」が38%で、「あわせると77%になりました。『開催すべき』という人は16%で、同じ質問をした去年10月と12月から減り続けています。逆に『中止すべき』、『さらに延期すべき』という人は、いずれも増えています」と伝えた。

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1月の世論調査

 翌14日、東京五輪大会組織委員会森喜朗会長が怒っているとの情報がNHK幹部に伝えられたという。
 これがNHKを揺さぶった。

 15日、すでに予告されていた1月24日のNスペ「令和未来会議 どうする?何のため?今こそ問う 東京オリンピックパラリンピック」が急遽中止になる。収録を2日後に控え、スタジオセットの建て込みも始まり、100人を超える出演者に対する依頼も終わって本番を待つばかりだった。現場の驚愕は想像に余りある。結果、番組は2カ月後の3月21日に放送された。もし1月にこの番組が放送されていれば、世論形成にかなりの影響があっただろう。

 さらに2月、こんどは世論調査の質問文が大きく変更された

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2月の世論調査。質問が全面的に変更された

 2月5日~7日に行われた世論調査ではまず、「東京オリンピックパラリンピックの開催まで半年を切りました。IOC国際オリンピック委員会は、開催を前提に準備を進めています」と開催を前提とした上で、「どのような形で開催すべきだと思いますか?」というきき方になっている。そして開催の仕方三つを選択肢として提示し、「さらに延期すべき」ははずされた。

 結果、「無観客」を含め「開催」の合計が55%で、「中止」の38%を大きく上回って、1月から逆転したかのように見えるようになった。

 世論調査とは、質問を同じにして人々の意識変化を追うことに意味があり、質問自体を変えてしまっては、それ以前との比較ができなくなる。ここまでくると、世論調査を操作したというしかない。

 菅氏はメディア界の常識も破壊してきたのである。

 

 では、今日の朝日歌壇(永田和宏選)からも備忘として―

言霊の国の総理が挨拶の言葉とばして原爆忌終ふ (神戸市 松本淳一

記者が問い総理が答える「責任」の意味の重なることなき会見 (観音寺市 篠原俊則)

安心と安全だけを繰り返す機械のような淋しき宰相 (横浜市 森 秀人)

 

史上もっとも無残な退陣劇

 昔の友人が、65歳以上のコロナワクチン接種率で山形県が1位だという。

 調べてみると、9月3日時点で2回接種した人が91.96%と、たしかに日本一だ。友人は「まじめな県民性のあらわれだ」というが、どうなんだろう。
 自治体も医療機関も精一杯がんばっているのだろうが、グラフを見ると、都会を抱える地域より田舎の方が接種率は高い傾向にあるようだ。

 日本全国で重症者の多い30代から50代への接種が早く進むよう期待する。
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 菅首相、引き際も醜かった。

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(テレ東より)

 退陣表明から一夜明け、新聞記事から共鳴する文章をいくつか、記録として残しておく。

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4日朝刊

《こんな落ち目のリーダーのもとで衆院選に突入すれば、自分たちの当選が危うい。そう考える議員らが総裁選を前に、新たな「選挙の顔」を求め始めた。(略)
 忘れてはいけないのは、わずか1年前にこの党(自民党)は圧倒的多数で菅氏を選んだことだ。ろくに政策論議もせずに。製造物責任」という言葉がある。菅政権を生み出した者として、維持補修そして改良の責任が議員一人ひとりにあるはずだ。しかし日本学術会議への人事介入にも、東京五輪の開催強行にも、表だってモノを言う人はいなかった。》(朝日、天声人語

《総裁選の立候補見送りを表明した自民党臨時役員会から4時間余り、首相は政府の経済財政諮問会議でこうあいさつした。「感染対策と社会経済活動の再開を両立させる道筋を早期に示してまいります」。昨年9月16日の就任会見での言い回しとほぼ同じだった。》

《1年ほどの「短期政権」に終わることになり、中長期的な課題の多くも積み残された。自ら掲げた2050年までに脱炭素化を果たすという目標も、再生可能エネルギーの大量導入をどう進めるかなど、実現への道筋は全く見えていない。》(同朝刊3面)

 

伊藤博文以来、99代目の日本の首相でしたが、これほど無残な退陣劇はちょっと思い出せません。(略)
 大事なことは「やっぱり菅さんでは無理だったね」とか「政治家が小粒になったね」といった政治家個人の問題で終わらせてはいけないということです。(略)
 厳しい言い方ですが、この1年、日本は首相が空席だったようなものです。世界的なパンデミックの中、本来は国民と危機感を共有し、メッセージを発することが指導者に求められるはずです。それが、首相の発言や行動がまったく重んじられなくなってしまっています。次の首相が誰になるにせよ、まず、この危機の時代を乗り切るための首相への信頼を取り戻すことが求められています。》(政治学者、御厨(みくりや)貴氏、朝日13面)

《頭に浮かんだのは、「策士、策におぼれる」ということですね。菅さんは人事を握ることで政治を動かしてきた。今回も、党の役員人事や内閣改造で局面を打開しようとしたけれど、うまくいかなかった。一番得意なはずの人事で行き詰ったんじゃないかと思います。》(ジャーナリスト、江川紹子氏、朝日13面)

 

一連の騒動は、菅首相個人の問題というより、政権交代がない前提で組み立てられた自民党の仕組みに起因する。総選挙と総裁選の日程が重なって混乱したのも、党総裁選の前に党役員人事をやる発想も、とにかく末期的というほかない。
 自民党は野党だった2009年から10年ぐらいまでは自己革新を進めたが、すぐに政権に復帰したため、55年体制の仕組みから脱皮できなかった。(略)
 今度の総裁選では党の刷新力が問われるが、もう手遅れかもしれない。》(学習院大学教授、野中尚人、読売朝刊11面)

 

『人事刷新』
自分を、でしたか―国民  (須賀川・カール、「かたえくぼ」より)

 

初めてだ国民のために働いた (神奈川県 安藤隆喜)

残念と言いつつ安堵する自民 (埼玉県 恵村純一郎)

風止まり戸惑っている風見鶏 (大阪府 佐藤隆治)―以上、朝日川柳より

 

 というわけで、きょうのGLIM SPANKYは「ストーリーの先に」

www.youtube.com

♪ウソばっかりのストーリーがまるで
 正しいようなふりしてはびこるよ

セミの生は「かわいそう」なのか

 内橋克人さんが亡くなった。

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NHKより

 よくテレビでもコメントしていたから、お顔は知られていると思う。

 《日本社会の経済格差を批判し誰もが安心して暮らせる社会の実現を訴え続けた経済評論家の内橋克人さんが1日、急性心筋梗塞のため神奈川県内の病院で亡くなりました。89歳でした。》(NHK

 民衆の立場に立つことを明確にしていた方だった。お歳を考えると仕方ないが、惜しい方を失った。

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 私は番組の打ち合わせで、鎌倉のご自宅に内橋さんを訪ねたことがある。熱を込めて日本の政治を糾弾しておられた。内橋さんのように、いつまでも青臭くラディカルでありたいものだ。

 そのとき、うちの会社(㈱ジン・ネット)が制作した報道番組を激賞してくださったことが忘れられない。とても励まされた。
 ご冥福をお祈りします。
・・・・・・・
 急遽、総裁選には出馬しないと菅首相。「新型コロナ対策に専念」するため(笑)だそうだ。

 8月24日には、二階派が派閥を挙げて菅再選を支持すると発表し、菅首相の続投濃厚かとの見方もあったのに、この急変。日本中からのブーイングが届いた感じだ。

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二階氏が驚くということは、菅氏はよほど孤独で決断したのだな(TBSニュースより)

 予想される候補者のなかでは、石破氏が一番マシに思えるが、誰が首相になっても菅氏よりはまともだろう。(あ、高市氏は除く)

 菅氏の顔を、10月以降日本の首相として見ないですむのはうれしいが、菅氏よりまともに見える首相が登場することで、総選挙が自民有利になるのは困る。そこはきっちり、これまでの政府の成績表を突きつけなければ。アベノマスクなんて笑い話も思い出して・・。
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 このところ、最高気温が20度ほどまでしか上がらず、肌寒い。秋だなあ。

 あちこちにセミが仰向けに死んでいる。必ず仰向けなのはなぜか不思議だったが、死ぬと脚が硬直して関節が曲がり体を支えていられずひっくり返るかららしい。

 「かわいそうだな、命が短くて」と同情されるセミ
 アブラゼミの場合、成虫になってからは2~3週間の命といわれている。その間、あわただしくオスは精一杯鳴いてメスを呼び、次世代の卵を残して生を終える。そこだけを見ると「あわれ」と無常感が漂う。

 セミは世界に1600種いて、ほとんどが熱帯に生息する。日本には32種いて、うち約20種は奄美・沖縄地方にすむという。姿かたちも、生態も鳴き声もいろいろで、沖縄のイワサキクサゼミは早ければ2月には鳴き始めるし、対馬のチョウセンケナガニイニイが現れるのは10月中旬になってから。

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(イワサキクサゼミは日本最小のセミで1.5cm、木ではなく草の葉にとまって鳴く)

 

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(チョウセンケナガニイニイは全身にいっぱい毛がはえている。寒さ対策か?)

 短い命というけれど、実はセミは昆虫の中では抜群に長命である

 例えば、蝶のヤマトシジミは卵が孵化し、幼虫から蛹(さなぎ)を経て成虫になるまで1カ月もかからない。そして成虫になって1週間ほどで死ぬ。
 エンマコオロギは、5月ごろ孵化し、2カ月ほどで成虫になり、2カ月ほどで死ぬ。

 これに比べるとセミはすごい。アブラゼミは地中で5~6年ほど過ごし、その間4回脱皮してから地上に上がってきて羽化し、成虫になる。

 今年6月ごろ、アメリカでセミが数兆匹大量発生のニュースが報じられた。今年が17年周期のセミの羽化の年に当たったからだ。いわゆる「周期ゼミ」で、13年周期のものが3種類、17年周期のものが12種類分かっているという。つまり最長17年も土の中で生きているのだ。

 セミの「はかない命」に同情する人間に対して、セミが言葉をしゃべれるなら、こう言うかもしれない。

 「私たちの生きる主な舞台は土の中。そこで長寿を楽しんでいるんだ。地上に出るのは、蝉生(ぜんせい)の最後に子孫を残すため。かわいそうだなんて同情してもらわなくてけっこう。」

 人間が勝手に、地上で生きるのがセミにとって「幸福」のはずだと、自分の価値観を当てはめているだけなのだろう。

 ふと、セミでなく、人間に対してもおのれの価値観を押し付けていないか、反省させられる。
 「あの人は、体に障害を持っているからかわいそう」、「片親しかいない不幸な人生だ」などなどと。それこそ余計なお世話である。

 セミは生を全うして死を迎えたのである。

政府は置き去りにしたアフガン人協力者を救え

 現代史の一つの画期、歴史に残る瞬間だった。

 30日深夜、午後11時59分(アフガニスタン時間)、駐アフガン米大使らを乗せた最後の米軍輸送機C17が空港を離陸、バイデン大統領は「20年間に及ぶアフガニスタンでの米軍の駐留は今、終結した」と宣言した。

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朝日新聞1日朝刊1面

 岸信夫防衛相は31日、アフガニスタンから日本人らを退避させるために派遣していた自衛隊機に撤収命令を出した。米軍の撤収により空港の安全確保が困難となることなどから退避作戦は終了し、航空自衛隊の輸送機計3機(C2が1機とC130が2機)は近く、隣国のパキスタンから日本に引き上げる。

 この戦争自体の評価は今後も考え続けるとして、問題は退避作戦をどう見るかだ。
 昨日の朝刊からいくつかの事実をピックアップすると―

 米大使だけでなく英大使プリストウ氏も最後までカブールに残った。通訳など英国に協力してきたアフガニスタン人らに出国ビザを発給し続けたという。
 前回は韓国(390人)の例を挙げたが、ドイツは4800人、フランスは2700人の現地スタッフらを退避させている。

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1日の朝日朝刊

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退避作戦について「最大の目標というのは邦人を保護することでありました。そういう意味では良かったというふうに思ってます」(菅首相)TBSより

 菅首相は、邦人保護が目的だったから「良かった」というが、これはウソだ。退避された邦人は一人だけ。大型輸送機を3機も出したのは、多くの現地スタッフなども退避させる対象だったからだ。
 
 報道によれば日本政府の動きは―
 6月上旬からは、日本大使館国際協力機構(JICA)の現地スタッフの退避の検討に入り、配偶者や子供を含めて約500人規模を民間チャーター機で送り出す算段だったという。だが14日には外務省から防衛省に対し、自衛隊機派遣を依頼する可能性を伝えていた。
 ただ、外務省は事態の進展のスピードを見誤った。茂木敏光外相は15日午前、予定通りに10日間の中東歴訪に出発したが、ちょうどその日にカブールの大統領官邸がタリバンに制圧された。外相はすぐに帰国して退避作戦をはじめとする指揮をとるべきだったのに中東歴訪をつづけた。現内閣の危機意識のなさ、危機管理能力のなさを見せつけられた。

 タリバンが首都を制圧すると、カブールの日本大使館は即日、閉鎖された。日本大使館員ら12人はカブールの空港へと移動。米軍機で退避する計画だが空港内の混乱で米軍機の発着所にたどりつけない。12人は2晩を空港ロビーで明かした後、英軍機で国外へ脱出した。残る日本人は国際機関の職員ら若干名で、多くは残留を希望したので、退避の焦点は邦人ではなく、現地スタッフとなった。

 大使館の現地スタッフによると、8月上旬に退避計画づくりを進言したが、「心配しなくていい。他の国が退避のアクションを取れば日本も続くから」と言われたという。大使館レベルでも危機意識が弱かったようだ。

 自衛隊機を出すことについては、派遣の根拠となる自衛隊法84条の4「在外邦人等の輸送」は「輸送を安全に実施することができると認められるとき」が要件。「自衛隊員が命を落とせば、政権が吹っ飛ぶ」(外務省幹部)として慎重になっていたという。省内の一部には「欧米と違い、日本はタリバンに敵視されるほどの存在ではない」との楽観論もあった。

 外務省がようやく防衛省と派遣に向けて詰めの協議に入ったのが、20日になってからだった。22日午後、首相官邸に外務、防衛両省の幹部らが集まり、首相と協議。そこで派遣が事実上決まった。その夕方、現地へ先遣隊を出発させた。この時点で、米国は8月末の軍撤退を決めていたから、活動できるのは25~27日のみというのが日本政府内での共通認識だったという。もうギリギリだったわけだ。

 《外務省の発表などによると、米軍とタリバンが合意できる見込みが立ち、カブール市内の集合場所から午後6時までにはバス27台で分譲し、空港に向かう計画を立てた。タリバンと関係が良好なカタール軍が同行することなども条件だったという。
 集合場所に集まって空港に向かおうとした矢先、空港付近で過激派組織「イスラム国」(IS)の支部組織による自爆テロが発生。空港のゲートが米軍によって封鎖され、作戦断念を余儀なくされた。(略)
 自衛隊の輸送機が運んだのは26日に米国から依頼された旧政権の政府関係者ら14人と、カタールの支援を受けて空港に到着した27日の日本人1人のみだった》(朝日新聞
 以上、記録として長めに引用しておく。

 残されたアフガン人スタッフとその家族をこれからどう出国させるのかが問題だ。

 TBSは「退避計画を進める過程で、対象者リストがイスラム主義組織タリバンに提出されたことも明らかになっており、政府には今後、現地スタッフらを守りながら、早期の出国を目指してタリバンや関係国と交渉を続けるという大きな課題が残りました」と報じた。
 退避させる「対象者」がタリバンに把握されているのであれば、早く手を打たなければならないのではないか。

 アフガニスタン情勢に詳しいジャーナリスト常岡浩介さんによると、今後形成される政府に「危険なタリバン」が入ってくるようで、心配だ。

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テレ朝「グッド!モーニング」2日

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常岡さんは、タリバンを「良いタリバン」と「危険なタリバン」に分け、危険な方のタリバンが政府の中枢に入ってくる可能性を指摘。

 それでも日本政府は置き去りにした人々を救出する責務がある。

 以下、1日の「天声人語」より―

タリバン政権の崩壊後、政府特別代表として現地に入った経験のある伊勢崎賢治氏が先日の紙面でこう語っていた。アフガン紛争で洋上給油に自衛隊を派遣した日本も「参戦国」の一つである。日本に関係の深い人たちがいま危険にさらされているのだと。

 日本政府がネット経由で「命のビザ」を発給することを伊勢崎氏は求める。命のビザは第2次大戦下でリトアニアにいた外交官杉原千畝にちなむ言葉である。助けを求めて領事館を囲んだユダヤ人に、杉原は独断で出国ビザを出し続けた。

 妻幸子の書いた『六千人の命のビザ』に杉原の言葉がある。「私を頼ってくる人々を見捨てるわけにはいかない。でなければ私は神に背く」。彼の行為が心を打つのは、人としての倫理観がそこにあるからだ。》

子どもたちの自殺を食い止めるには2

 大使館員はいち早く撤収し、日本からはるばる飛ばした大型輸送機2機で邦人一人と他国から依頼されたアフガン人十数人を運んだ、アフガンでの退避作戦を、今朝の朝日川柳はこう詠んだ。

輸送機はやめてセスナでよかったに (大阪府 小倉三歩)

大使館あとは見捨ててドバイ着 (神奈川県 高橋貞子)

棄民する国なりコロナもアフガンも (静岡県 飯田健彦)

 日本に協力した現地スタッフと家族からなる、置き去りにされた退避希望者500人が心配だ。日本が受け入れることにして進めることは可能だと思うが、政府はどうする?

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 9月は東京都を含む多くの自治体で、自殺対策強化月間になっている。

 東京都は「自殺総合対策計画~こころといのちのサポートプラン~」を作成し、「平成27年と比較して30%以上減少/自殺死亡率 17.4→平成38(2026)年までに 12.2以下/自殺者数 2,290人→平成38(2026)年までに 1,600人以下」と数値目標まで立てて取り組んでいる。 https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/iryo/tokyokaigi/jisatsutaisaku_keikaku.files/zentai.pdf  
 その重点は、「広域的な普及啓発」「相談体制の充実」「若年層対策の推進」「職場における自殺対策の推進」「自殺未遂者の再度の自殺企図を防ぐ」「遺された人への支援の充実」で、どれも反対するものはないが、これらは自殺したい人がたくさんいることを前提とした「対策」だ。しかし、そもそも自殺したくなくなる心をつくるという、いわば予防に踏み込むことが必要だと私は思っている。
 そして、学校でニワトリを飼って「生き物係」が世話して・・といったやり方では対応できないと思う。

 日本の若い人たちの自己肯定感が、世界的にみてもきわめて低いことは多くの調査で明らかにされてきた。

takase.hatenablog.jp


 若者の自殺をくいとめる基本はここで、「自分に自信がない」心をなんとかしなくてはならない。

 もっとも根本的なのはコスモロジーだ。コスモロジーとは、宇宙がどうなっているのか(秩序・条理・法則)を了解する、いわば「世界観」「宇宙観」だが、これは人生観と裏腹になっている。「生きる価値もない、つまらん世の中だ」という世界観なら、人生観も当然希望のないものになる。コスモロジー=宇宙観をどう作っていくかはこのブログでも何度か書いてきたが、きょうは個人レベルでの、より実践的なセラピーについて考えてみる。

 若者が自信を喪失している最大の原因は、行き過ぎた相対評価にがんじがらめになっていることだ。

 例えば、学校で勉強またはスポーツが「できる」と評価されるには、クラスの上位1割に入っていないといけない。そうなると「自分はできない」と思ってしまうのが9割。つまりほとんどの若者は、ずっと卒業まで、「負け組」と自分を卑下しつづけることになる。自分だけがそう思うのではなく、周りからもそう評価されるから、劣等感は強化される。

 社会に出ると、こんどは経済的「業績」で、他者、他社とつねに競争にさらされて生きていかなくてはならない。

 大人は「業績」、子どもは「成績」を基準に、相対評価され続けて、「自分には価値がない」と自信を喪失するのである。(なぜ現代日本でこの傾向が著しいのか―日本の文化状況、資本主義の特徴など―についてはきょうは触れない)

 つねに他との比較、相対評価にさらされることで失われた自信を取り戻すキーになるのは、絶対評価しかない。

 自信の構成要素としては大きく自己能力感(自分は~ができる)、自己価値感(自分が生きていることには意味がある)がある。つねに他人と比べて自分はできない、自分には良いところがないと思わされてきたのを、絶対評価でひっくり返すのだ。
 絶対評価で自分の能力に気づくセラピーについては以前ここで触れた。

takase.hatenablog.jp

 当たり前すぎていつもは気づかないが、「自分は何もできない」と自信のない多くの人たちにも、すばらしい能力がそなわっているのである。

 パラリンピックをテレビで見る機会が多い今は、自分がもつ能力の絶対評価に気づきやすい環境にある。

 目でものを見ることができる、耳で音を聴くことができる、歩くことができる、走ることができる、手で物をつかむことができる・・・さらには、呼吸することができる、食べ物を消化することができる、などなど。

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手がないので足でボールをトスし、ラケットを口にくわえてプレーする卓球選手(エジプトのハマドトゥ選手48歳)

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 これでどうやってスポーツ競技ができるのか、想像できない選手もいる。それにひきかえ、自分にはいろんな能力がしっかり備わっている・・これだけですでにありがたいことだ、とあらためて気づかされる。

 自己価値観については、岡野守也先生のワークショップのやり方を紹介したい。

 「自分のいいところ」をありったけ書くようにするワークをすると、自分のいいところなんて一つも思い浮かばない、一つも書けないという人がかなりでる。そこで、いいところを発見するよう手助けする。

《まず、「あなたはまじめです。まじめでなければ、こんなワークショップに来たりはしないですよ」と言う。しかし、自信のない人は自信がないという信念をもっていたりして、「私はそんなにまじめではない」とか「まじめすぎると言われます」などと言うことがある。
 それに対して筆者は、「そんなにまじめではないというのは、まるでまじめではないということでしょうか、それとも少しはまじめだということですか」と聞いたり、「まじめすぎるのは、まじめさがないということですか」と聞いたりすることにしている。そして、多くても少なくても、すぎてもすぎなくても、「あるものはある」と気づいていただく。
 そのうえで、「あなたにはまちがいなく、まじめさといういいところがある」と強く指摘するのである。そうするとたいていの人が、「そうか、私ってまじめなんだ。いいところがあるんだ」と気づいてくださる。
 同じように、「好奇心」や「積極性」、「行動力」や「理解力」、そして「向上心」があることを指摘する。「好奇心がなければこんなところに来たりしないよね」とか、「積極性がなければわざわざ参加したりしないでしょう」などと言う。(略)そして何より、「向上心があったからこそこんなことを学ぶ気になったんでしょう。向上心は、長所の中でも特に長所です」と強調する。》岡野守也『生きる自信の心理学』PHP新書P244-245)

 ワークやセラピーの手法はさまざまでいいが、自分を人と比べることなく、絶対評価することで認めていく。ナンバーワンではなくオンリーワンの自分を発見していく。

 こういうセラピーを、何らかの形で学校教育に取り入れられないものだろうか。