ウイグル人ジェノサイド 当事者の声を「報特」が取材

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 子どもたちの手がゆらめくと、そこにシャボン玉が・・・
 これは27億年前、シアノバクテリア光合成で酸素を発生させたシーン。

 土曜日、小平市鷹の台駅裏の林で、玉川上水46億年を歩く」の一環の影絵のリハーサルがあった。「玉川上水46億年を歩く」は東京ビエンナーレのプロジェクトで、私も少しだけお手伝いしている。

tb2020.jp

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白亜紀。恐竜の動きを振り付け

 影絵の本番は今度の土曜12日の夜で、私は40億年の生命史をお話しする。小さい子も多いので、「光合成」など特殊用語は使えない。どんな話にするか、思案中だ。

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 久し振りに晴れ、林の中での生演奏付きのリハーサルは気持ちがよかった。

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ここはもうすぐ道路工事で伐採される予定。都会の貴重な緑がまた失われる

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 節気は芒種(ぼうしゅ)。芒は「のぎ」と読み、稲などの先にある突起の部分だそうだ。穀物の種をまく時節を意味する。きょう、日課の自転車の街歩きの途中、田植えしたばかりの田んぼを見た。

 5日から初候「蟷螂生」(かまきり、しょうず)
 11日から次候「腐草為螢」(くされたるくさ、ほたるとなる」
 16日からが末候「梅子黄」(うめのみ、きばむ)
 先週、八百屋で梅を見かけたので、梅酒を仕込んだ。去年、梅ジャムがとてもうまかったのでこれも作りたい。

 サクランボも旬だが、山形から「今年のサクランボが異常に出来が悪い」との知らせがあった。
 ネットで検索したら、「山形のサクランボが不作、1996年以来の厳しさ 天候不順影響」(毎日新聞)との報道。25年ぶりの大不作だ。農家は大変だろう。今年は食べられないかな。

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 5日のTBS「報道特集」がウイグル問題を特集した

 中国新疆ウイグル自治区での深刻な人権侵害は、ジェノサイド(大量虐殺・文化の抹殺)にすらなると非難されている。番組では、生々しい当事者の声をしっかりと取材していてとてもよかった。番組内容を記録しておきたい。

 特集は「家族が突然消えた、突然拘束されたなどと訴える当事者の声を取材しました」とのキャスターの紹介で始まった。

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先月9日、国連大学前。民主化と自由を訴えるアジア人 600人が参加。ウイグル人たちは青い旗をかかげて強制収容に抗議の声をあげた

 中国の西の玄関、新疆ウイグル自治区。面積は日本の4倍。ウイグル族をはじめ少数民族が2500万人暮らしている。その多くがイスラム教徒。

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モスクには共産党のスローガンと国旗が

 市内のモスクには愛党愛国のスローガンと中国の国旗がかかげられている。

 ウイグル族漢民族とのあいだで衝突が繰り返されてきた。テロ根絶を掲げた習近平政権が強力に推し進めた政策が、「職業訓練」などの教育だった。

 その「職業訓練」の名のもとに家族が強制収容されたと話す人物がいる。都内に住むレテプ・アフメットさん

 19年前、東京大学の大学院に進むため来日した。

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大学院生時代のアフメットさん

 日本は世界でもっとも多く、新疆からの留学生を受け入れているという。妻もウイグル族。アフメットさんたちは10年前日本に帰化した。3人の子どもがいて、2人が小学生、1人が中学生だ。

 故郷の家族とは定期的に連絡を取り合っていたが、4年ほど前からは様子が変わり始めた。

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左から2人目がアフメットさん。右端が弟

 父や弟から何度か連絡があって、家族を連れて帰って来いとこれまで口にしなかったことを何度も言うようになった。

 その後、不審に思っていたアフメットさんのもとに脅しの電話がかかってきた、相手は警察だ。

〈アフメットさん〉
「警察が『お父さんの言うことを聞いてさっさと還れ』と。『還らないと家族がどうなっても知らないぞ』みたいなことを言ってきた」

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 家族の身を案じながらも帰ることを拒んでいると、再び警察から電話がかかってきた。
〈アフメットさん〉
「自宅(実家)に来てて警察が、そのときに母と警察の電話で話をした。
父と弟と、あと父と母の兄弟やその配偶者、子どもも含めて親戚12人が、『今勉強に行ってます』と。『再教育に行ってます』と。『家にいないです』と」

 お母さんの声を聞いたのは、それが最後。
 その後、実家の電話やスマートフォンに電話してもつながらなくなったという。

 アフメットさんの親戚が収容されたとみられるのが、中国政府が「職業訓練施設」と呼ぶ場所だ。

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メディアに公開された「職業訓練施設」

 「貧困の解消」という明国で新疆の各地につくられ、職業訓練に加え、中国語や中国の歴史・文化などの教育を行う。
 メディアに施設を公開。訓練生から返ってきた答えはー
 「自発的に来たので、人権問題とは関係ないし、自由もある」

 母親との最後の会話の一か月後、地元公安当局を名乗る男から、ある映像が送られてきた。

 父親のメッセージ動画。いつもかぶっていた民族伝統の帽子がない。天井には監視カメラらしきものが映っている。

(父)「悩み事も無く、不自由のない生活をしている。お前も我が国の利益を最優先に考え、積極的に協力すれば、私たちも安心してすごせる」

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公安当局から送られてきたお父さんの動画


〈アフメットさん〉「テロリストに(人質に)とられている人たちの状況とまったく一緒なので、最初はこの動画を観るたびに精神的につらくて、毎日泣いてましたね」
「非常にショックな精神的な圧力になりましたね」

 中国政府の発表によると、2014年以降、年平均128万人が「職業訓練」を受けたと。そして2019年に「新疆は発展した」として施設を解散したという。

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 アフメットさんは人づてに父親と弟が施設の外に出ることができたと聞いた。あらためて電話をかけてみた。
 通じない。出る気配がない。

〈アフメットさん〉
「海外との通信、電話だったり、メッセージだったりといったことのやりとりも、罪に問われるということもよく報告されている。あえて(電話を)とってない可能性もある」

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アフメットさんのお母さん


〈アフメットさん〉「先日、母の日がきて、世界中の人たちが自分の母に連絡して、お花を贈ったりお祝いをしていたと思います。私たちは、そもそも、それどころか、電話一本できないまま、何回も何回も母の日が過ぎていくわけです。精神的な拷問ですよ、これは」

 家族の安否すら分からない状態がすでに3年以上続いている。
(つづく)

 

孤立しても屈しない武漢の活動家

 5日で横田滋さんが亡くなって1年を迎えた。先日、早紀江さんから1周忌のお便りをいただいて、もうそんなになるのかと感慨深かった。

 きのう、早紀江さんが報道各社のオンライン取材に応じた。

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 滋さんの遺骨を納骨せずに自宅に置いている理由を早紀江さんはこう語った。
 「納骨はいつでもできる。お父さんはめぐみちゃんを抱きしめたいと思って頑張ってきた。早くめぐみちゃんが帰ってきて、お父さんには会えなかったけど、遺骨を抱きしめてあげてほしい。それを願っている」。
 切なく、悲しい。

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遺骨は自宅に置いてある

 季節はいやおうなく過ぎていく。滋さんの病室にあった鉢植えが花を咲かせた。めぐみさんの弟の哲也さんが、滋さんのお見舞いにと持ってきてベッドの前にいつも置いてあったのを、滋さんが亡くなったあと大きなプランターに植え替えたら真っ赤な花が咲き始めたという。

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仲睦まじい滋さん生前のショット(TBS)

 めぐみさんも花が大好きだった。

 早紀江さんはオンライン取材に、「お父さんが亡くなっても何も動かない1年が過ぎていく」と進展がみえない状況に焦りをにじませたという。
  
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 6月4日は香港ではじめて、天安門事件の追悼集会が開かれなかった。去年も集会は不許可だったが、大勢の人々が政府の意向を無視して集まった。それが今回は、警官隊が会場の公園を封鎖するなどして物理的に集会を開けなくした。

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去年の香港の6月4日集会

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今年

 中国本土では全国で治安当局が厳しい監視態勢を取って警戒。何事もなく過ぎた。

 NHK武漢在住の張毅さん(55)を取材していた。

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 去年のちょうど今頃このブログで紹介した人だ。

takase.hatenablog.jp

 1989年は、武漢でも民主化運動が盛んで、街の一部を若者が占拠するほどだったという。運動に参加した張さんは、天安門事件後拘束され、2年間投獄されている。

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89年当時の張さん

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罪状は学生を扇動したというもの

 今も自宅には監視カメラが取り付けられ、しばしば警察がやってきてSNSの内容に警告し圧力をかけるという。それでも張さんは、去年のコロナ感染への当局の対応に疑問を投げかけるなど、闘いをやめていない。

 武漢で最初期に警鐘を鳴らした医師を当局は処分し、その医師は直後に亡くなった。コロナ感染の実態を独自に取材した仲間のジャーナリストは拘束された。

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市民ジャーナリストの陳秋実さんは、武漢の状況を独自取材してSNSで発信し拘束された。泣きながら拘束が迫っていると訴える姿から、当局への恐怖が伝わってくる

 張さんは取材にこう語っている。
武漢新型コロナウイルスの本当の状況を伝えたために仲間たちは捕まったのです」
多くの人は自分の身の安全を考えて要領よく生きようとしています。長い時間と紆余曲折を経ながらも民主化や自由への渇望はより強固なものとなっています

 当局に睨まれている張さんは、6月4日がくると毎年、警官に伴われて武漢市外に一時「隔離」させられるという。

 いま中国では、中国がコロナ感染を世界でいち早く抑え込み、ダントツの経済成長を遂げていることを受けて、若者の愛国心が急上昇しているという。

 民主化への動きは完全に封じ込められたように見えるが、張さんのように孤立しながらも抵抗をやめない市民の存在に励まされる。加油

パペットが突如勝手に喋りだし

パペットが突如勝手に喋(しゃべ)りだし (神奈川県 大坪智)今朝の朝日川柳より

「今の状況で普通は(五輪開催は)ない。このパンデミックで」

「そもそも五輪をこういう状況のなかで何のためにやるのか。それがないと、一般の人は協力しようと思わない」

「緊急事態宣言の中でのオリンピックなんていうことを絶対に避ける」

 御用学者と見られていた政府分科会の尾身会長が、ここにきてまともな発言を連発。20日より前に、独自に専門家による提言を発表すると明言した。

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対立はどこまでいくか

 政府は大慌てで、菅首相は「あいつを黙らせろ!」と激怒しているという。これまでは追及されるとすぐに「専門家のご意見をうかがって・・・」と尾身会長の陰に隠れていたくせに。

 田村憲久厚生労働相は「自主的な研究の成果の発表という形で受け止めさせていただく」、丸川珠代五輪相は「全く別の地平から見てきた言葉」との反応。私たちとは関係ありません!というわけだ。

 勝ち目のない戦に突っ込んでいった、かつての日本の愚劣をほうふつとさせる。
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 朝刊に「台湾にワクチン きょう124万回分」との見出し。

《政府は新型コロナウイルスのワクチンの調達が遅れている台湾に対し、4日に英アストラゼネカ製ワクチンを124万回分提供する方針を固めた。その後も複数回に分けて提供する。短期間で届けられるよう国際的な枠組みは使わず、政府主体で行う考えだ。》

 ほう!きょう6月4日は「天安門事件」32年目の日ではないか。よりによってなぜこの日に?
 台湾にワクチンを供与する方向で検討していることは知っていたが、きょう運ぶとは急な話だ。 

 調べると、きょうはJALの定期便はない日だ。
 《成田/台北線のJL809便は現在、コロナの影響により、火、木のみの運航で、6月4日(金)は運航予定日ではありませんが、ワクチン輸送のために特別に貨物便として運航されます》(https://flyteam.jp/news/article/133002

 意図的にワクチン輸送を天安門事件の日にぶつけたのか?
 日本の台湾へのワクチン供与の動きについては、中国はすでに5月31日、外務省の汪文斌(おうぶんひん)報道局長が「コロナ対策を政治ショーに利用して中国に内政干渉することは断固反対する」と反発していた。

 まさか日本に、中国にケンカを売ろうなどという度胸はないだろう。裏に誰か知恵ものがいて、外交方針を牛耳っているのか。それとも、たんに配慮のない場当たり外交なのか。

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中国ウォッチャーのジャーナリスト、安田峰俊さんがツイッターで紹介していた。89年がJAL809に、台湾到着時刻が2時40分とは合わせすぎだろ・・・ https://twitter.com/YSD0118/status/1400686531501645825

 一方、香港では、例年行われてきた、中国政府による民主運動弾圧の犠牲者を追悼する集会を去年に続いてコロナを理由に不許可とし、阻止するために大量の警官を動員した。

 また、天安門事件の記念館を閉鎖したうえ、無許可集会を促進したとして、香港の民主活動家の鄒幸彤(すうこうとう)氏をきょう逮捕した。

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NHKニュースより

 鄒氏は、追悼集会を開催する「香港市民支援愛国民主運動連合会」で副主席を務める。

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6月2日、天安門事件記念館に当局が査察に入り、「公衆娯楽場所」としての違法営業を理由に閉鎖された

 ますます露骨に人権弾圧を強める中国共産党

 我々は「天安門事件」を忘れない。

人類は「文化」で環境に適応していった

 早稲田大学に行ったついでに周辺の商店街を歩く。

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 「メルシー」は古い店で、昔、私が勝手に出していたミニコミ誌にここのラーメンを紹介したおぼえがある。たしか、チャーシューに醤油の味がよく染みていてうまい、などと書いた。

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 素直な濃い味でうまい。値段は税込みで450円!。5時ごろ入ったのだが、客は途切れなかった。

 大隈通りに「ニューエコー」という看板を見つけた。かつて民青系活動家のたまり場の喫茶店だった。いまは韓国焼肉レストランになって店構えも一変している。そのほかは全く知らないお店ばかりで、過ぎた時間の長さを思い知らされた。

 自分だけは半世紀前と変わっていないように感じるから不思議である。
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 火曜の夜、「アマゾン源流 未知の山に挑む―ギアナ高地 最後の秘境」という2013年の番組を再放送していた。

 「グレートジャーニー」の関野吉晴さんが、かつて登頂に失敗したギアナ高地最高峰、ネブリーナに再度挑戦したときの映像だ。

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左に聳えるのが最高峰ネブリーナ

 結局、さまざまな困難にあって、頂上に立つことはできなかったのだが、途中、ヤノマミの集落に立ち寄ったりした関野さんの体験をおもしろく観た。

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ヤノマミ

 このヤノマミもまた、ユーラシア大陸からベーリング海峡を渡ってアメリカ大陸に移住した末裔である。

 人類のグレートジャーニーで一番感心するのは、このベーリング海峡越えだ。
 ただでさえ寒い北極近くを、氷河期に、シベリアからアラスカへと渡っていったのだ。信じられない。
 その謎を明かしたのが、シベリアの遺跡で見つかった「針」だった。ここはもう北極海のすぐそばという高緯度で、寒さは尋常ではない。この針は穴(めど)が開いていて明らかに縫い針だ。マンモスやトナカイの骨で作られている。

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3万2千年前の「ヤナRHS遺跡」は北極海のすぐそば

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マンモスやトナカイの骨で作った縫い針

 針があれば、毛皮を縫い合わせて体をすっぽりくるむことによって体から熱を逃がさず、エネルギー効率を高めることができる。靴も作っただろう。糸はおそらく腱(けん)だったと推測されている。針と糸、これは大発明だ。これが最高の寒さ対策となって寒冷地への進出を果たした。

 小さな穴=めどをあけるには、それに特化した道具が要る。針という道具を作る道具だ。強度を保ったまま細く鋭くして、小さな穴を開ける、高い技術もあったのだ。そもそも針を思いつくのがすごい。縫い針を使い始めたことは、火の使用に勝るとも劣らない革命だったと評価するむきもある。

 ネアンデルダール人は毛皮を衣服にしていただろうが、針と糸がなければ体から熱が逃げるので、ホモ・サピエンスの2倍くらい食べないと生きていけなかっただろうとの推測がある。

 寒さ対策と並んで、驚くのが海を超えて移動したことだ。ベーリング海峡は氷河期だったため、海面は100m前後低くなって陸続きだったとされる。しかし、オーストラリアに到達するには、複数回、長距離の海越えがある。

 新たな土地への移住には、一定数の男女がいないといけないから、それなりの船を用意しなければならない。となると、木を切り倒して船に加工する優れた道具(石器)が要るし、何より熟練した航海術が不可欠だ。そして、船づくりや航海術などの「文化」は、漕ぎだす前に蓄積されていたはずだ。

 実は、3万年以上前のグレートジャーニーで、はっきりと船が必要なルートは、ここと日本列島への3ルートのうちの南方ルート(台湾あたりから沖縄諸島へ)がある。朝鮮半島からのルートとサハリンから北海道への北方ルートは海面低下で陸続きになっていた。日本へも南方からは航海術に長けたグループが来ていたことになる。

 こうして、ホモ・サピエンスは、あらゆる環境に「文化」で適応していった。

(つづく)

人類の移住が新大陸の大型獣を絶滅させた

 きのう早稲田大学の近くで打ち合わせがあり、少し早めに終わったのであたりをぐるっと散歩した。私が入学したのが1972年。もう半世紀もたつのか。

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立て看板もなければ、ビラをまく学生もいない

 「中国研究会」があった1号館の地下はどうなっているだろう。当時は何十ものサークルがひしめきあい、使い古した立て看板で仕切って部室を確保していた。隣はたしか「川崎セツルメント」だった。タバコの煙が立ちこめ、床はガリ版刷りのビラでいっぱいで汚かったが、そこが学生時代もっとも長い時間を過ごした場所だった。
 行ってみると、今はもうサークル自体が存在せず、無機質な事務スペースになっていた。キャンパスはどこも不純物が排除されてきれいだ。

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演劇博物館の隣に変わった建物が建設中。入口に村上春樹ライブラリー(2021年10月オープン)と書いてあった)

 変わってないのは俺だけなんじゃないか・・。思い出のとっかかりがなかなか見つけられないセンチメンタル・ジャーニーだった。

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西早稲田の交差点にタチアオイが咲いていた

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 大坂なおみ、すごいな。たった一人でテニス界を変えようとしている。

 5月30日、試合後の会見拒否で罰金を科せられ、「違反を続ければ大会からの失格、4大大会への出場停止もあり得る」とまで警告されたのに、うつを告白し、大会を棄権するにいたって、一気に風向きが変わり、大坂への支持が高まった。

 すると4大大会の主催者は一転、合同で「大坂選手がコートを離れている間、可能な限りのサポートを提供したい」、「選手が心身や社会的に最高の状態を保つことは、4大大会にとって常に優先事項。心のケアとともに、さらなる行動を起こしたい」と声明を出し、新たな制度構築も計画しているとした。4大大会の方が、心を入れ替えますというのだ。

 日本のスポーツ界では近年、パワハラ、セクハラなどの不祥事が次々に表に出てきたが、アスリートが普段からきちんと自分の意見を主張するようになってほしい。
 東京五輪についても、当事者としてもっと語ってはどうか。
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 ホモ・サピエンスが地球のすみずみにまで広がったグレートジャーニーは、環境へのすばらしい適応を示すできごとだ。もっと前の原人や旧人などの人類種もユーラシアの一部には進出したが、極寒のベーリング海峡を抜けていかねばならないアメリカ大陸と途中で広い海を渡る必要があるオーストリア大陸には行けなかった。

 しかし、それら人類にとっての新大陸への旅は同時に、地球環境に劇的な影響を与えたのだった。

 人類の移住と機を一にして、大型の動物が次々に絶滅していったのだ。
 南北アメリカでは、体重45kg以上の動物は75%が絶滅。オーストラリアでは86.4%が絶滅したとされている。

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オーストラリアで絶滅したプロコプトドン(体高3mのカンガルー)の想像図

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オーストラリアで絶滅した大型獣

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南米で絶滅したメガテリウム(体重3t、体長6-8m)想像図

 これらの動物は100万年以上前から数度の氷河期を生きのびてきたので、気候変動ではなく人類の移住が絶滅を招いたとみられる。

 アフリカ、ユーラシアでは数万年におよぶ狩猟の歴史のなかで、動物たちはヒトへの警戒心を培ってきたが、新大陸の動物たちはそれまでヒトを見たことがなかった。ヒトを恐がらないガラパゴス諸島の動物と同じで、新大陸の動物を狩るのは簡単だったろう。

 アメリカ大陸では、ウマ、ゾウ、オオアルマジロ、巨大ナマケモノが絶滅。西部劇でインディアンが馬に乗って騎兵隊と闘うのは、後世の刷り込みで、白人がアメリカに来た時、新大陸の馬はとっくの昔に絶滅していた。

 大型獣の絶滅は、家畜にする動物が少なくなったことで、のちに白人たちが持ち込んだ感染症で新大陸の社会が壊滅する遠因にもなっている。人類の感染症のほとんどは動物、とくに家畜由来で、牧畜の歴史のあるユーラシアから来た感染症への抵抗力を新世界の住民はもっていなかったのだ。

 ホモ・サピエンスは、地球に拡散する過程で、高い適応力と技術力により、地球環境を大きく変えていった。

(つづく)

コロナウイルスと「共存」するには

 紫陽花が咲いた。

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 山形の実家から根っこごと持ってきて植えたもの。

 関東もそろそろ梅雨入りらしい。

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 「朝日歌壇」の4人の選者のなかに永田和宏氏がいるが、彼の選にはいつも納得がいく。
 歌人であるとともに細胞生物学者として知られ、いま永田氏の『生命の内と外』という本を読んでいる。細胞という極小の世界から、自己と他者、人間と地球環境をまで考えさせる哲学的な本だ。

 今回の歌壇では、ずらりと五輪の歌を選んでいた。うち2首。

オリンピックを招致の人が東京へ来ないでと言ふ緊急事態 (浜松市 松井惠)

見に行くな見ても喋るな拍手せよ腫物のごと聖火来県 (大洲市 村上明美

 大洲市愛媛県か。いまの日本全体が病的に見えてくる。
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 イギリス型に続いてインド型と、新型コロナウイルスの変異株の感染拡大が連日報じられている。

 いま、進化論を勉強しているので、これはまさにコロナウイルスの「進化」なんだなと納得する。ウイルスの遺伝子の突然変異と自然淘汰によって、より効果的に感染していくものが登場するわけだ。

 人間は1世代交代するのに20年から30年かかるのに対し、ウイルスは瞬時にどんどん増殖していくから進化のスピードは速い。そのうちワクチンによる免疫をくぐり抜けるものが登場して、インフルエンザのように、毎年の流行型によってワクチンを替えなくてはならなくなる可能性もあるだろう。先が思いやられる。

 ジャレド・ダイアモンド『銃・病原菌・鉄』を読むと、感染症が人類の歴史を変えた役割の大きさに驚嘆する。

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 例えば、西洋によるアメリカ新大陸支配は、銃と鉄だけでなく、天然痘という病原菌によって可能になった。

 1519年、コルテスが、人口数百万人を誇り、勇猛果敢な軍隊を擁するアステカ帝国を打ち負かしたのは、一人の奴隷が1520年にメキシコにもたらした天然痘の大流行のおかげだった。
 この流行で、アステカ帝国の人口のほぼ半分が死亡し、犠牲者のなかには皇帝クイトラワクもいた。アステカ人だけが死に、スペイン人はなんともないという謎の病気に士気は低下していった。

 南米では1531年、ピサロが人口数百万のインカ帝国を征服するために、168人の兵士を引き連れてペルーの海岸に上陸した。
 ちょうどそのころ、1526年頃に陸路経由でインカ帝国に達した天然痘が、皇帝とその後継者を含む多くの人命を奪っていた。ピサロは、王位継承をめぐる内紛で分裂状態になっていた混乱に乗じてインカ帝国を制服することができた。

 アステカ人、インカ人をふくむ新大陸の先住民たちは、天然痘のほか、麻疹、インフルエンザ、チフス、さらにジフテリアマラリアおたふく風邪、百日咳、ペスト、結核、黄熱病などヨーロッパ人が持ち込んだ十種類以上の感染症に襲われつづけた。
 1492年のコロンブスによる「発見」当時、2000万人いたとされるアメリカ大陸の先住民は200年もたたないうちに人口が95%も減少してしまったという。(上P389)

 その原因はもちろん、先住民たちがそれらの感染症に対する免疫、遺伝的に強い抵抗力をもっていなかったからだ。逆にヨーロッパ人は、感染症との付き合いの長い歴史のなかで、病原菌への抵抗力を得ていた。

 病原菌は、宿主や媒介動物との相互関係のなかで「進化」する。病原菌は、新しい宿主や梅花動物に適応すれば生き残り、適応できなければ自然淘汰によって排除される。

 興味深い例がある。オーストラリアで、19世紀に持ち込まれ大量発生したヨーロッパウサギを駆除し、農産物被害を食い止めようと、意図的にミクソーマウイルスが持ち込まれた。このウイルスは、ヨーロッパウサギに致死的な粘液腫症の集団感染を引き起こすもので、最初の年(1950年)には感染したウサギの99.8%を致死させた。だが農民たちが喜んだのもつかの間、この致死率は2年目には90%、数年後には25%へと減少し、結局、ウサギの撲滅にはいたらなかった。
 ミクソーマウイルスは、宿主のウサギが死にすぎて自分が困らないように、ウサギを死に至らせない、あるいはいずれ死ぬ場合でも、すぐには死なせないように変化したのだった。(上P384)

 

 朝日新聞福岡伸一のドリトル的平衡」というコラムがある。きょう、あのドリトル先生なら、コロナ問題にどうコメントするのかという想定問答が載っていた。

「・・人類と病原体のせめぎあいは過去、何度となく繰り返されてきたものだよ。そもそも病原体は好き好んで人間を病気にしているわけじゃない。なんとか自分たちの居場所を求めてさまよっているだけなんだ。生物と生物の関係は、弱肉強食とか適者生存とか言われるけれど、一方が他方を完全に滅ばしたり、凌駕しつくすことはない。そんなことをしたら結局は自分たちも滅んでしまうからね。だから生物たちはせめぎあいながらも、たえず共生をめざしている。ところで、病原体にとって理想的な宿主との関係とはどんなものだろう。

「それは・・ほどよいバランスを保つ状態でしょうか」

「そうだね。さらにいえば、宿主にほとんど気づかれないまま居候することだね。なまじ宿主に病気を引き起こすから、見つけられたり、退治されたりすることになる。だから病原体にとっていちばん安定的に存続する方法は、どんどん弱毒化、無毒化していって、しまいには気配を消すことだよ。そして実際、自然はそうなっている。流行が終息するということはそういうことなんだ」

「でも、それには時間がかかります」

「そう。短兵急に戦おうとすれば逆襲にあう。これも生命現象の常だね。病原体が“共存体”になるまで待つしかないということになる」

 

 「共存」には時間がかかりそうだ。

 

27年前の責任を認めたフランスの勇気

 緊急事態宣言の延長が決まり、菅首相が会見した。
 具体的で効果的なコロナ対策を打ち出さない以上、延長になるのは分かりきっていた。首相の言葉には、あいかわらず中身がないが、これにだんだん慣れっこになっていくのが怖い。
 

 五輪開催まで2カ月を切った段階で、開催都市の東京都でさえ、開催反対の声が強い。「中止するべきだ」が6割で、「観客を制限して開催」「無観客で開催」の2倍に上った。菅首相、現実をしっかりみてほしい。

 

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都内の有権者東京新聞などが意識調査を実施

    そんななか、うれしい話題。

 日本最大級の縄文集落跡で知られる三内丸山遺跡青森市)など17の遺跡で構成される「北海道・北東北の縄文遺跡群」(北海道、青森、岩手、秋田各県)について、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の諮問機関、国際記念物遺跡会議(イコモス)が世界文化遺産への登録を勧告した。

 縄文人遺(のこ)したつもりないけれど(神奈川県 河村芳郎)朝日川柳より

 縄文は、狩猟採集生活で長期に定住したひじょうにユニークな文化だ。私も関心があり、縄文文化の展示があるとなるべく見に行くようにしているが、あの種の土器は世界的にも珍しい。去年は青森の三内丸山遺跡を見学し堪能した。

 

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三内丸山遺跡朝日新聞

 実際に縄文人の暮らしていた場所をみると、われらのご先祖を身近に感じ、その知恵に尊敬の念を覚える。

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 縄文時代、日本列島に住んでいたのピーク時でも26万人。そこから、いまの日本の人口1億2000万人へと増えてきた。ということは、私たちはみな非常に近い親戚であるに違いない。

 そもそもがアフリカ大陸に共通の祖先をもち、ユーラシア大陸の東端まで来る間にさまざまに交雑し、日本列島に3つのルートで入ってきたあとも、互いに交わり、弥生時代以降も、また別な移民の波がやってきて・・・とまじりあい続けて今にいたる。「純粋な日本人」などというものはいない。さまざまな事情で日本列島に住むようになった近い親戚同士が私たちだ。
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 今朝の朝刊に、ルワンダ虐殺『責任』認める―仏大統領」の見出しの小さい記事が載った。

 《フランスのマクロン大統領は27日、アフリカのルワンダを訪問し、同国で80万人以上が殺害された27年前(1994年)の虐殺について、「フランスはジェノサイド(集団殺害)を実行した体制側にいた」と述べ、フランスに責任があると正式に認めた
 フランスは、少数派民族ツチの住民らを殺害した多数派民族フツの政府軍を、90年代に政治的・軍事的に支えていた。マクロン氏は首都キガリの虐殺記念館で演説し、「歴史を正面から見つめなければならない。フランスは責任を負っていた」と述べた》(朝日新聞

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NHKより

 この問題にはフランスの歴代政権が触りたくないと避けてきたが、マクロン氏が調査を命じ、1990年にフランスが部隊を派遣して以降、虐殺までの4年間8千の機密文書が分析された

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 その結果できた分厚い調査報告書は、フランスが「事件前にルワンダ政府を支援したことで、政権内のフツ過激派に力を与え」、「(現地に派遣していた)フランス軍の介入が遅れたことで多くの犠牲者を救えなかった」と指摘。
 「フランス政府が虐殺の兆候や事態の深刻化から目を背け政権を支援し続けた」として、フランスには「圧倒的に重い責任がある」と結論づけた
 
 報告書作成にあたったバンサン・デュクレール氏。

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 「フランスは4年間にわたり、ルワンダの政府と軍を支援してきた。だから即座にルワンダ軍を“敵”とみなすことができなかった。これまでは、さまざまな“圧力”によって真実の追求が妨げられてきた。状況を打開したのが、マクロン大統領で、“真実を知るべきだ”と決断した」と語る。

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両親、兄弟など家族12人を虐殺された女性


 フランスが過去の誤りに目を向け、堂々と責任を認めたことに感銘を受けた。歴史的な文書をしっかり保存し、後世に遺すことの重要性も教えられる。
 こういう文明国のイロハを日本はあらためて学ばなければならない。