河野義行さんはなぜ憎まないのか1

 公園などで、白い花が咲いているように見える木がある。シマトネリコだ。花のように見えるのは、6~7月に花が咲いたあとになる長い鞘のような白い実だ。この木は暑さにつよいそうで見かけることが多くなっている印象がある。オフィス近くに建った新しいビルの入り口にも植えられていた。

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 渋野日向子選手が、全英女子オープンで日本選手として42年ぶりのメジャー大会優勝を果たしたニュース。まわりの人に、渋野って前から知ってた?と聞くと、みな知らなかったと言う。
 まさに一夜にして運命が変わったシンデレラだが、そこにスマイリングという形容詞がついた。いつも笑顔で、ダブルボギーの後でさえ腐らずにニコニコ笑ってプレーし、それが良い結果につながったという。

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 そうだよなあ。人生、望みどおりにならないことばかりだが、それに怒ったり恨んだりしちゃいけないな。宮沢賢治じゃないけど、いつも静かに笑っている、というふうに生きたいものだ。ニュースを観ながらそんなことを考えていた。

 また、プレーがうまくいかず、コートにラケットを叩きつけたあと自滅した大坂なおみのことを思い出した。
 大乗仏教では、忿(ふん=怒り)、恨(こん=恨み)などは煩悩とされ、自分にも他人にも良いことはもたらさない。
(ただし、私憤はNGだが、義憤、公憤は慈悲がベースになった憤りだからOK。仁王様の怒りの表情には慈悲があるはずだ。https://takase.hatenablog.jp/entry/20160925

 私はかつては怒りっぽいときもあり、東南アジアで支局長をやっていたとき、スタッフのモノの言い方が気に入らずに「You are fired! クビだ!明日から来なくていい」などと怒鳴ったものだ。立派なパワハラである。
 今は自分で言うのもなんだが、別人のように怒らなくなったと思う。それと嫌いな人が激減したのも、修行(トレーニング)のおかげと感謝している。肉体のトレーニングと同じで、心の修行も、効果が自覚できるようになるのはとてもうれしいし、もっとやろうという励みにもなる。


 怒らない、恨まない、憎まない。そのためのやり方はいくつかあるが、松本サリン事件の被害者、河野義行さん(69)の考え方がとてもおもしろい。
 オウム真理教の松本サリン事件(死者8人、重軽傷者600人)から25年がたつ。河野さんは、自身がサリン被害にあい、妻、澄子さんをサリンの後遺症でなくしている。さらに、被害者なのに警察、メディアからは犯人扱いされ、世間からは非難の集中砲火を浴びた。結婚した河野さんの親戚は嫁ぎ先から「犯人の親戚を家には置けないから離婚してくれ」とまで言われたという。
 そこまでの理不尽な目にあいながら、河野さんはオウムを含む誰にも憎しみ、恨みや怒りはないという。のちに病床の澄子さんへのオウム教団関係者の見舞いを受け入れ、教団元幹部への死刑執行にあたっては「残念」「悲しい」とさえ語った。
 河野さんは新聞のインタビューにこう答えている。
 「事件の1週間ほど後、高校1年生だった長男に私は『世の中には誤認逮捕もあるし、裁判官が間違えることもある。最悪の場合、お父さんは7人を殺した犯人にされて死刑になるだろう』と言いました。もし死刑執行の日が来たらお父さんは執行官たちに『あなた方は間違えましたね。でも許してあげます』と言うよ、とも」
―中学生と高校生だった3人のお子さんに、苦境をどう受け止めようと話したのですか。
 「子どもには『人は間違うものだ。間違えているのはあなたたちの方なのだから許してあげる。そういう位置に自分の心を置こう』と言い聞かせました。意地悪をする人より少し高い位置まで、許すという場所まで心を引き上げようということです。悪いことはしていないのだから卑屈にならず平然と生活しようとの思いでした」。(3日朝日朝刊)
 まさか、と思うほどの心境だ。だが、河野さんは特定の宗教を信じていない。では、どうやってこんなふうに考えることができたのだろうか。
(つづく)

「弁士中止!」ふたたび

 8月1日(金)、冒険家の阿部雅龍さんに会った。場所は東京都港区立エコプラザ。ここで1日から15日まで「冒険家の見た南極の環境展」の展示がある。阿部さん自ら展示の設営をしていた。以下、エコプラザのHPより。

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 《冒険家、阿部雅龍(まさたつ)さんは、これまで3度の北極探検に加え、11,000kmに及ぶ南米自転車縦断、北米大陸のロッキー山脈縦貫トレイル5,400km踏破、アマゾン川いかだ下り2,000km、そして、南極大陸では、「メスナールート」と呼ばれる日本人未踏破ルートを踏破して、南極点到達を達成しました。地球環境の危機が叫ばれている今日、北極の氷山の崩壊は地球温暖化バロメーターにもなっています。果たして今、極地では何が起こっているのでしょうか。極地の厳しい自然環境や、世界の環境保全への取り組みについて、冒険家の足跡と共に、写真とパネルで紹介します。また、極地で食料品や各種道具を運ぶために使用した「ソリ」や「極地ウエアー」も展示します。実物の「ソリ」に是非、触れてみてください。》

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 阿部さんは自称「夢を追う男」で、人力車夫である。今年1月16日、南極点まで917.7キロを単独で歩き通した。今年の冬は、白瀬矗(のぶ)中尉と同じルートで南極点到達をめざす。昼ご飯を食べながら、白瀬さんができなかった南極点到達を、彼のルートで実現したいと熱く語ってくれた。しかし、それは山越えの必要な非常に危険な難ルートで周囲はみな心配しているという。
 阿部さんは秋田県人で、白瀬中尉は同郷。子どものころからあこがれていたそうだ。阿部さんと共通の友人、登山家で写真家の小松由佳さん(一昨年NNNドキュメントで番組を制作https://takase.hatenablog.jp/entry/20170919)やフォトジャーナリストの高橋智史さん(カンボジアを取材して土門拳賞を受賞https://takase.hatenablog.jp/entry/2019/03/29/)が秋田出身。こう並ぶと、信念をまげずに一途に走り続ける人ばかりだ。すごいな秋田人。
    いま阿部さんは南極行きのための費用1億円を集めている。浅草で人力車を引いているのでよかったら乗ってやってください。
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 こんな暴挙が許されるのか。
 「あいちトリエンナーレ」の展示が急遽中止に追い込まれた
 《愛知県内で開かれている国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」(津田大介芸術監督)の実行委員会は3日、企画展「表現の不自由展・その後」の中止を決めた。慰安婦を表現した少女像など、各地の美術館から撤去されるなどした二十数点を展示しているが、抗議の電話が殺到するなどしていた。(略)
 津田氏によると、少女像をめぐって、抗議する電話が開幕した今月1日だけで約200件あった。テロ予告や脅迫と取れるもの、職員の名前を聞き出してネットに書き込むような事例もあり、「対応する職員が精神的に疲弊している」と説明していた。
 一方、河村たかし名古屋市長が2日、トリエンナーレ実行委員会会長である大村秀章・愛知県知事に対し、展示中止を含めた適切な対応を求める抗議文を提出。「日本国民の心を踏みにじる行為」などと主張し、津田氏らが対応を検討していた。
    津田氏は2日に開いた記者会見で、企画展について「表現の自由が相当制限されてきた公共施設で、行政と作家が協議し、自己規制や検閲なしに展示できる実例を示したかった」と説明していた。》(朝日)

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 演説中に「弁士中止!」と強制的にやめさせた言論弾圧の時代を彷彿とさせるではないか。
 朝日新聞は1面トップで報じ、2面は全面で解説、社会面にも記事を載せて、この事件の重要性を強調した。
 目についたツイートから。
 ロバート・キャンベル
 《不自由展なら唾棄すべき内容だと言う人も共感する人も声高に議論すればいい。手続きに不正がなかったか検証するも良し。しかしそれを経ずに首長が唐突に中止を求め誰かが「撤収しなければガソリン」と脅迫し挙句に止むを得ず中止とするのは自由な議論を奪う流れ、とても残念だ》https://twitter.com/rcampbelltokyo/status/1157672384935018496


 内田樹
 《ふだん隠蔽されている社会の暗部を可視化するのはすぐれて批評的な行為です。今回の愛知の出来事で、日本の暗部が深くかつ広範囲に可視化されました。嫌な話ですけれど、日本の暗部がこうして白日の下に晒されて、僕たちの住んでいる社会の実相を開示されたのは批評の手柄だと思います。》https://twitter.com/levinassien/status/1157829218031435777


 中野晃氏
 《中止判断に至った経緯は不明ですが、主催者にとって一番きついのは警察に「このままでは安全を保証できない」って言われることでは。市長や官房長官が、右翼に騒ぐようゴーサイン出して、警察にハシゴを外させる。警察が恣意的に暴力を許容し、自由の範囲を狭めるとしたらファシズムそのもの。真相は?》
https://twitter.com/buu34/status/1157897633664364545


 脅迫があるならば、警察が実力で展示会を守るというのが民主国家のあり方ではないのか。潰す側は、組織的な脅迫でイベントを中止させることができるという成功例になっただろうが、こんなことを続かせてはならない。

グアムまで飛ばないうちはお友達

 昔なじみのヨーロッパ出身のジャーナリストから「会いたい」と連絡があり、きのう日本外国特派員協会に行った。たまたま、「NHKから国民を守る党」の立花孝志党首が記者会見をやっていたので、私も参加した。

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 受信料を支払った人だけがNHKを視聴できる「スクランブル放送」に安倍首相が同調すれば、憲法改正の国会発議に賛同する交換条件を提示する立花党首。憲法原発など基本的な政策をどうするのか質問されると、「党首として政策内容は言わないようにしている」と不思議な答え。NHKのスクランブル化以外の政策は今後「可及的速やかに明らかにする」そうだ。参院選投票率が低いことについて聞かれると、「日本が安全で豊かな国である証明なので、投票率が引くのはいいことだ」という。現実を見ていない政党なのだなと思った。
 この会見でも、立花氏は得意の「NHKをぶっ壊す」をジェスチャーつきで披露していた。通訳がそれを“Scrap NHK!”と英訳した。なるほどこういうときは「スクラップ」を使うのか、と勉強になった。
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 このところ、外交関係で気になる出来事が次々に起きている。「外交の安倍」と胸をはる安倍首相だが、その内実は?

 まずは日韓関係。
 《政府は2日の閣議で、輸出の優遇措置を適用する「ホワイト国」のリストから韓国を除外する政令改正を決定した。政令改正は7日に公布され、28日に施行される。世耕弘成経済産業相は会見で、今回の措置は安全保障上の観点から対応したもので、徴用工問題などを巡る韓国への対抗措置ではないと強調した。韓国はこれに強く反発。文在寅大統領は「非常に無謀な決定だ」と批判、対抗措置をとる考えを示した。》(ロイター)
 文在寅大統領は「加害者である日本が、盗っ人たけだけしく、むしろ大きな声で騒ぐ状況は絶対に座視しない」と異例に強い言葉で非難している。文政権は断固として日本に屈しないという姿勢で国民の支持を集めているし、日本でも韓国には譲歩すべきでないという意見が圧倒的に多いから、両国とも強硬路線は続くだろう。
 それにしても日本の対応はまずかった。はじめの段階で、政府高官が慰安婦や徴用工をめぐる問題の報復ととられる発言をしていたことや、6月に来日した文大統領に説明のないまま抜き打ちで「ホワイト国」除外を発表したことで、国際的な印象としては日本が不利になったと思う。ここまで来たら、安全保障上の問題が何かを公開して国際社会に理解を求めるべきだ。

 文在寅大統領には高飛車に出る安倍政権だが、ロシアには「抱きつき」外交で、またまたプーチンと首脳会談だそうだ。プーチンはじめ政府高官は「北方領土」は返しませんと何度も言っているのに、安倍首相は成果が上がっていると言うばかり。そんな中、ロシア首相が2日、北方領土択捉島を訪問した。メドベージェフ氏の北方領土への訪問は2015年以来、4年ぶり4回目だという。
 日本政府は抗議したが、《メドベージェフ氏は北方領土への訪問に対する日本政府の抗議について「ここは我々の土地で、ロシアの領土である。(抗議を)懸念する理由はない」と反論した。国内の訪問に他国の同意を得る必要はないと主張し、「このような(日本の)反発が大きいほど、ロシア政府の代表が訪れる理由がある」と譲歩しない姿勢を強調した。現地で記者団に答えた。》(日経)
 ツイッターでは・・「安倍晋三プーチンと25回も会談して3000億円もプレゼントしてコレかよ?無能に任せておくと拉致問題北方領土問題も後退しまくりだな。」(きっこのツイート)
 これが「外交の安倍」の実態だ。

 では、ゴルフ友だちで仲良しだというトランプ大統領はどうか。
 《トランプ米政権が、在日米軍駐留経費の日本側負担について、大幅な増額を日本政府に求めていたことがわかった。各国と結ぶ同盟のコストを米国ばかりが負担しているのは不公平だと訴えるトランプ大統領の意向に基づくとみられる。来年にも始まる経費負担をめぐる日米交渉は、同盟関係を不安定にさせかねない厳しいものになりそうだ。
 複数の米政府関係者によると、ボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)が7月21、22日に来日し、谷内正太郎国家安全保障局長らと会談した際に要求したという。今後の交渉で求める可能性がある増額の規模として日本側に示した数字について、関係者の一人は「5倍」、別の関係者は「3倍以上」と述べた。ただ、交渉前の「言い値」の可能性もある。》(朝日)
 米軍駐留にたっぷりと「思いやり予算」をつけて、兵器購入で大盤振る舞いさせられたうえ、もっとカネを出せか。
 菅義偉官房長官は、ボルトン氏の5倍の負担を求める可能性があると日本側に伝えたとする報道を「そのような事実はない」と否定した。では、ボルトン氏に、私たちも当惑していますので「そんな発言はしていない」と言明してくださいと要求しましょう。

 そうこうしていると、北朝鮮がまたまた「飛翔体」を発射した。
 《韓国軍の合同参謀本部によると、北朝鮮は2日午前3時ごろと同3時20分すぎ、東部の永興付近から、日本海に向けて短距離の飛翔体を2回にわたり発射した。飛翔体の発射は7月25日、31日に続くもので、1週間余で3度は異例だ。
 合同参謀本部によると、今回の飛翔体の高度は約25キロ、推定される飛行距離は約220キロ。韓国大統領府は、今回の飛翔体は31日のものと似ていると指摘。「新型の短距離弾道ミサイルの可能性が高い」とした。》
 これも「米韓が5日から予定する合同軍事演習」への「牽制」だと解説されている。ミサイル開発には貴重な外貨と膨大な労力がつぎ込まれている。そのミサイルを発射するのは、景気づけに花火を上げるのとは違う。トランプ氏がアメリカに届かないミサイルは問題にしないという間に、開発の速度をあげていると私には見える。より高い精度の、迎撃システムに補足されないミサイルを作ろうとしているのだろう。

    グアムまで飛ばないうちはお友達大阪府 早田良二、朝日川柳8/3)
 世界はいったいどこに向かっているのか。ますます混沌とする国際情勢だ。

ウイグルで何が起きているのか―メヒルグル・トゥルスンさんの証言3

 足もとにツユクサが咲いていた。

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 《朝咲いた花が昼しぼむことが朝露を連想させることから「露草」と名付けられたという説がある。英名の Dayflower も「その日のうちにしぼむ花」という意味を持つ。》(Wiki)『万葉集』などの和歌集では「月草」(ツキクサ)と表記されているという。

つき草のうつろいやすく思へかも我(あ)が思(も)ふ人の言(こと)も告げ来(こ)ぬ(巻4 583)
 すぐに消えるはかないものの象徴として、古くから慕われていたようだ。
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 きょう、れいわ新選組から比例代表で初当選した、重度身体障がい者の舩後靖彦さん(61)と木村英子さん(54)が本会議に初登院した。

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難病で屍(かばね)のごとき俺だから 『人につくす』で生きてる意味を

 二人は「重度訪問介護」のサービスを受けているが、今の制度では自宅での利用が前提で、通勤や仕事中にはこのサービスを受けられない。そこで急遽、参議院が二人の議員活動に必要な介護費を当面負担することが決められた。しかし、木村さんたちは二人の特例ではなく、障害者みんなに適用されるべきとして、抗議の意を示すため国会に登院しない選択肢も示唆していたが、国会の中で改革に努力するとして登院することに。国会前では取材者がどっと木村さんに群がり、一時は騒然とした。
 フジの「トクだね!」取材班は、木村さんを自宅から追いかけて箱乗りまで敢行。舩後さんの車にはテレ朝が国会まで箱乗りしたようだ。選挙前とはうって変わってメディアに大注目されている。

 以下は内閣府のHPの「障害者」に関する記述だ。

 《身体障害、知的障害、精神障害の3区分について、各区分における障害者数の概数は、身体障害者(身体障害児を含む。以下同じ。)436万人、知的障害者(知的障害児を含む。以下同じ。)108万2千人、精神障害者392万4千人となっている。

 これを人口千人当たりの人数でみると、身体障害者は34人、知的障害者は9人、精神障害者は31人となる。複数の障害を併せ持つ者もいるため、単純な合計にはならないものの、国民のおよそ7.4%が何らかの障害を有していることになる。》
https://www8.cao.go.jp/shougai/whitepaper/h30hakusho/zenbun/siryo_02.html

 女性が人口の半数を占めるのに、国会議員の比率に反映されないのはおかしいという論法からすると、障害者が人口の7.4%とすれば、衆参両院合わせて713人(衆議院465人、参議院248人)の中に50人くらいの障害者議員がいて当然ということになる。
     バリアフリー化は遅すぎたが、二人を受け入れるためのドタバタや軋轢(日本維新の会松井一郎代表は議員活動に介助費用を参院が負担することに反対した)が障害者をどう受け入れるかの問題に大きな注目を向けさせているのはいいことだと思う。
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 ウイグル女性、メヒルグル・トゥルスンさんの証言つづき。

 2018年1月18日、私は再び収容された。
収容されるとき、「おまえはこれでおしまいだ。無期懲役か死刑かだ」と言われた。6ヵ所の施設を転々とした。独房のときもあった。今度はオレンジ色の服を着せられた。「おまえはまもなく死ぬ」と言われた。また「死ぬ方法を選べる」とも。
 尋問の際、「私の二人の子どもはエジプトの旅券を持っている」と告げると、すぐエジプト大使館に連絡したらしく、エジプト政府の人が面会に来て、子どもとエジプトに戻れることになった。
 収容所から出ると、親、兄、妹はじめ親戚26人もが拘束されていることが分かった。
4月28日、当局から2か月以内に中国に戻るよういわれ、子ども2人を連れて北京空港からエジプトに向け出国した。北京を出るとき、警察官に、「自分はなぜこんな目にあわせられるのか」と聞くと、答えは「簡単だ。お前がウイグル人だからだ」というものだった。
 カイロに着いて元の家に行ったが、誰も住んでおらず、夫に会うことができない。知り合いに聞きまわると、夫は2016年、消息の絶えた私を探しに新疆ウイグル自治区に行き、そのまま捕まり、懲役16年の刑を受けたという。今はどこにいるか、生きているかどうかも不明だ。最後に夫と会ったのは、2015年5月にカイロ空港で見送ってくれたときだ。
 絶望に襲われた。北京を出発する前、必ずすぐに中国に帰るよう命令されており、家族からもエジプトにいる私に「帰ってきて」との電話が何度もあった。家族のことも心配で、帰るかどうかとても悩んだ。
 しかし、もし中国に帰れば、私は死刑になり、子どもは孤児になる。帰ったからと言って家族らが釈放されることはないだろう。新疆ウイグル自治区では、収容所に入っていない人でも家庭の中で24時間監視されている。自由さという点では、収容所の中にいる人と外にいる人の違いは、収容所の制服を着ているかいないか、違いはこれだけだ。 
 地区ごとに収容者の人数のノルマが与えられ、達成するために手当たり次第にウイグル人を捕まえている。悩んだ末、アメリカに亡命することにした。

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いま米国で二人の子どもと暮らす

 しかし、アメリカでも、どうやって調べたのか、中国の家族から「帰ってこい」と電話がくる。中国人から車で追いかけられたりしたこともあり、怖くなって3回もひっこしをした。それでも、今もスーパーで買い物していて尾行されたりする。
 中国ウイグルの家族が心配だ。妹は23歳、大学を卒業したばかりだが、消息不明だ。捕まっている人は高学歴の人が多い。中国が言うような「職業訓練」や中国語の勉強など必要のない人たちだ。2015年にはまだハラル食堂があったし、葬儀を(イスラム教徒の)ウイグル式にやることもできた。
 2018年には、すべての家庭に盗聴器がしかけられ、ウイグル的な文化、習慣は禁止された。伝統的なお祝いの言葉を交わすこと、お祭り、イスラム式の挨拶をしただけで収容される。女性がスカーフをかぶるのも禁止。スカートは膝上まであげないといけないし、ハラル食材を使うのも禁じられた。コーランを読んだら実刑だ。家には習近平の写真を掲げることを強いられる。海外旅行もできない。
 会社や銀行など政府機関でウイグル語を使ったら即実刑だ。男性は中国内地に送られ、女性は中国人(漢族)との結婚を促される。必ず中国人の男性とウイグル人女性の組み合わせで、逆はない。
 アメリカのクリニックで検査したら、「あなたがこの先子どもを産むことは90%できないだろう」と言われた。収容所で注射されたのは妊娠機能を阻害する薬だったのかもしれない。
 中国当局ウイグル人の文化を壊すだけでなく、ウイグル人を物理的にも消しさるつもりだと思う。
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 トゥルスンさんの証言を聞く限り、近代史上稀にみる非人道的な民族弾圧で、「ウイグル人を物理的にも消しさるつもり」という彼女の訴えに説得力を感じる。知られた人権団体がいっせいに声を上げている。もはや「まさか」と驚いている段階ではなく、行動に出なければならない。

ウイグルで何が起きているのか―メヒルグル・トゥルスンさんの証言2

 7月も終わりだ。急に暑くなって、夜もエアコンを入れないと敷布がじっとり濡れてしまう。
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 先週、北朝鮮が5月に引き続き、ミサイルを発射した。多くのマスコミ解説では、これを米韓軍事演習への「牽制」だとしている。私は北朝鮮が政治的な駆け引きを目的にミサイル発射をしているという見方には反対だ。これまでも繰り返してきたが、北朝鮮は実戦使用する武器としてのミサイルの性能向上に邁進している。
 《韓国軍当局者は26日、北朝鮮が25日に発射した2発の短距離弾道ミサイルを巡り、ロシア製の「イスカンデル」に酷似しているとの見方を明らかにした。通常の弾道弾とは異なる軌道で飛行するため、捕捉や迎撃が難しい。韓国軍は2発のミサイルの飛距離を「600キロ程度」に修正した。日本を射程に収める能力を有している可能性があり、新たな脅威となる。
 イスカンデルはロシア軍が開発し実戦配備しているミサイル。固体燃料を使い移動式発射台から発射するため、事前の捕捉が難しい。韓国軍によれば今回のミサイルの高度は50キロと低く、下降時は水平飛行に移行する特性を見せた。5月に発射したミサイル「KN23」も類似の特徴があるという。(略)

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25日、新型ミサイルの発射を視察する金正恩

 26日の朝鮮中央通信によると、発射を視察した金正恩委員長はミサイルを「防御が容易でない戦術誘導弾の低高度飛行軌道の特性と、戦闘的威力を確信できるようになった」と評価した。
 新型ミサイルの脅威について、韓国国防省出身の金東葉慶南大教授は「核弾頭を搭載し、ミサイル防衛網を突破できる」指摘する。最大射程については「中朝境界から発射して韓国・釜山に届く700キロで設計された可能性が高い」と分析した。
700キロなら、南北境界近くから発射した場合、長崎県佐世保などの在日米軍基地も射程に入る。脅威の度合いは高まったが、日米韓が一致して北朝鮮に厳しい姿勢を取れるかは微妙だ。今のところ国連安全保障理事会の制裁決議違反を問う声は上がっていない。
 トランプ米大統領は25日のFOXニュースで「彼らは核実験はしていないし、小さいミサイルしか発射していない」と述べ、問題視しない立場を示した。ポンペオ米国務長官も25日、FOXニュースで、金正恩委員長が6月に板門店でトランプ氏と会談した際、「中距離や長距離の弾道ミサイル発射は避ける」と約束したと主張した。》https://www.nikkei.com/article/DGXMZO47829970W9A720C1FF8000/
 弾道ミサイルなら、国連安保理の制裁決議違反になるはずだが、トランプ氏は米国本土に届かない短距離ミサイルならかまわないと公言している。北朝鮮への非難を控える中露韓はもとより、米国までがこうだから北朝鮮の対日本ミサイル開発をやめさせる圧力はもうないと見てよい。
 わが日本も・・安倍晋三首相は、25日早朝のミサイル発射の後、静養先の山梨県富士河口湖町でゴルフを楽しんだ。日本の安全保障に影響を与えないと判断したためだという。
 金正恩が言った「防御が容易でない」ミサイルを開発しているという言葉は、そのまま受け取る必要がある。ただでさえ効果が疑問視される日本のミサイル防衛システムでは全く対応できないミサイルが開発され着々と性能が改良されている。いま世の中は、この現実を見ないようにしようとしている。私には、実験を重ねるごとに北朝鮮ミサイルの脅威は確実に高まっているとしか思えないのだが。
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 ウイグルから米国に亡命したメヒルグル・トゥルスンの証言つづき。

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7月6日、証言を寄せたトゥルスンさん

 三つ子を連れてエジプトからウイグルに里帰りしたトゥルスンさんは、ウルムチの空港で拘束されたあげく、引き離された幼子一人が死亡。その後釈放されてウルムチから遠く離れた両親の住む実家で警察の監視の中生活していた。すると・・
 2017年4月17日、特殊警察から電話ですぐウルムチに来いと言われたので、飛行機で向かった。出頭すると荷物を取り上げられ、拘束された。理由は「民族間の対立を煽った」というもの。全く身に覚えのない罪状だった。
 3日間、眠らされずに尋問を受けた。なぜ外国に行ったのか、何をしていたのか、なぜ礼拝をするのかなど繰り返し聞かれた。十数人が交代で拷問した。だれそれという人物を知っているだろうとの質問に「知らない」と答えるとひどく殴られた。そのため、今も右の耳が聞こえない。
 頭部に電気ショックの拷問をされ、思わず「アッラーよ!」と叫ぶと嘲笑され、さらに拷問された。2回の電気ショックの拷問で気を失った。
 4月21日、病院に運ばれた。病院では、あらゆる臓器が検査された。(注)
 そこから、頭に黒い布、手錠、足には鎖をつけられて収容所に連行された。裸にされ、男たちに調べられ、青い服を着せられた。54番という番号をつけられ210号室に入れられた。50数人の監房だった。
 あまりの屈辱に「どうすれば自殺できるだろう」ということばかり考えていた。収容されている人は2~3日ごとに4~5人が入れ替わった。
 習近平国家主席の長寿を祈り、中国共産党を称えるスローガンを言わされ、できると中華まんが与えられ、できないと拷問された。睡眠不足、栄養不足で、みな手足が腫れていた。房の4ヵ所に監視カメラがあり、24時間電灯がついていた。部屋の隅に穴が開いていてそれが便所。みなの眼に触れながら用をたすしかない。房は狭すぎて、2時間おきに20~30人づつ交代で寝ていた。
 ときおり1人づつ呼び出され、強制的に注射されたり薬を飲まされたりした。何の薬か分からない。私がいた間、同じ房の女性で亡くなった人が9人いる。亡くなったのは21歳の若い人から年長の人は86歳だった。呼び出されて帰ってこない人もいた。どうなったのかわからない。
 薬を投与されると気分がとても落ち込んで、1週間ほどうつ状態になった。2017年8月末、気絶して気がつくと精神病院にいた。どうやって病院に運ばれたか、全く覚えていない。その後、実家に帰った私は人を怖がるようになった。
 実家は常時きびしい監視下におかるようになった。2人の政府職員が我が家に住みこんで一緒に生活するという。電話も使えない。外出もできない。家族との会話もみな聞かれるという暮らしが始まった。
(つづく)

注:中国では、生体からの臓器移植が横行しているとの未確認情報がある。

ウイグルで何が起きているのか―メヒルグル・トゥルスンさんの証言1

 立花孝志代表の「NHKから国民を守る党」(N国)が、「北方領土を戦争で奪い返す」発言の丸山穂高議員(元維新)の入党を発表。さらに秘書への暴力とパワハラで告発されている石崎徹議員(自民)など問題議員や渡辺喜美参院議員にまで入党勧誘しているという。
 その一方で、N国がトンデモ政党だということが明らかにされ、危険なその体質に警鐘が鳴らされている。立花代表自身が悪質なデマを振りまく人物である他、40人近い地方議員もネトウヨ、ヘイトの巣窟だという。「NHK問題の本質は、内部に朝鮮人が増えたことが原因」などというヘイトデマを流す者までいる。N国が5議席を超えれば、代表質問権を得て国会がメチャクチャになるとの危惧はもっともだ。ストップN国!
https://lite-ra.com/2019/07/post-4871.html
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 シリアのある写真が衝撃を与えている。

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がれきの下敷きになったまま妹(右)を助けようとする5歳の姉リハムちゃん(中央)。父親(左上)は姉妹に向かって何かを叫んでいる(シリア反体制派メディア「SY24」提供)

 《内戦が続くシリアの北西部イドリブ県で、空爆で倒壊した建物の下敷きになった5歳の女児が生後7カ月の妹のシャツをつかみ、助けようとする写真が会員制交流サイト(SNS)などで拡散している。現地メディアが28日までに伝えた。女児はその後死亡、妹は集中治療室(ICU)に入っている。痛ましい状況に衝撃が広がった。
 イドリブ県は反体制派の最後の拠点で、アサド政権とロシア軍による激しい攻撃が続いている。
 写真は24日、現地ジャーナリストが撮影した。倒壊した建物の上の方では、父親が姉妹に向かって必死に何かを叫ぶ様子が写っている。建物はその後さらに崩れ落ちた。》(共同)
 イドリブで起きていることは、これまでアサド政権が行なってきた住民無差別殺戮の延長だ。米国がシリアから手を引く姿勢を見せるなか、ロシア、イランが支援するアサド政権主導の「安定」へと向かう趨勢だが、それは恐怖の平和を意味することになる。
 まずはとにかくアサド政権とロシア軍の爆撃をやめさせなければならない。
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 7月6日(土)午後、明治大学で「ウイグル人証言集会」(アムネスティインターナショナル・明大現代中国研究所共催)があった。
 ウイグル問題の日本での第一人者、水谷尚子さん(明治大学准教授)によると、強制収容所に入れられているウイグル人は数年前までは「100万人」と言われていたが、今ははるかに多いだろうという。人権団体などでは、少なく見積もって80万人、300万人の数字をあげるところもあるという。新疆ウイグル自治区の人口は2500万人で、うちウイグル人は1000万人余りとされるから、100万人でも1割、300万人だとすれば3割が収容所送りという想像を絶する事態である。
 はじめは外国に留学した人、とくにイスラム学を研究する人などから尋問、収容され、次第に知識人、宗教に熱心な人、政府に批判的な人、子どもをたくさん産んだ人、外国に旅行に行った人、外国に親戚のいる人など、どんどん収容対象者の範囲が広がり、ささいな口実で誰もが引っ張られる無差別収容と言っていい状況だという。
 私は報道や人権団体の発表などで、ある程度はウイグル情勢を勉強し、このブログでも何度か触れた。また、去年秋に来日した「世界ウイグル会議」総裁のドルクン・エイサ氏に直接話を聞き、あまりの非道さに驚いた。https://takase.hatenablog.jp/entry/20181121(後日報告すると書いてそのままになっている)
 6日の集会では、9人もの在日ウイグル人がはじめて実名で、新疆ウイグル自治区の家族や友人が受けている人権侵害を訴えた。直接に聞く証言の内容はどれもすさまじく、嗚咽に詰まりながら話す人もいた。
 人権活動家のウイグル人、イリハム・マハムティさんによると、2年ほど前までは、日本でいくら訴えても信じてもらえなかったという。あまりに酷い話なので、「いくらなんでも中国政府が、そこまでのことをするわけがない」と思われたというのだ。
 ところがこの日は明治大学の250人定員の会場は予約がいっぱいで、予約せずに行った私は「キャンセル待ち」に。結局入れたが、関心を持つ人が増えているのは喜ばしい。

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 集会の最初の証言者は、メヒルグル・トゥルスン(Mihrigul Tursun)さんという米国に亡命したウイグル人女性だった。この集会のためにインタビューした録画を流し、その後、スカイプで会場と米国のトゥルスンさんを結んで質疑応答が行なわれた。
 彼女の証言がもっとも詳しく現地で起きている事態を伝えているので、私のメモをもとに内容を紹介したい。

 

 トゥルスンさんは30歳。中国の新疆ウイグル自治区で育ち、広州大学で経済学を学んだあとエジプトに留学。カイロで働いていたウイグル人の夫と知り合い結婚し、三つ子(2人男子、1人女子)を授かった。
 悲劇は、乳児3人と里帰りで中国に向かったことからはじまる。
 2015年5月13日、生後45日の新生児を抱えてウルムチの空港に着いたら、その場で別室に入れられた。理由はなく、ただ「聞きたいことがある」とだけ言われた。そこから、子どもと引き裂かれ、手錠をかけられて刑務所へと連行された。
 刑務所では7日間、真っ暗な独房に入れられ、連日、なぜ外国に行ったのか、誰と付き合っていたかなどの尋問を受けた。
 その後、一般の監房に入れられた。そこにいたのは、夫が外国にいたり、熱心なイスラム教徒だったり、子どもをたくさん産んだなどの理由で拘束された二十数人の女性で、3人がカザフ人であとはウイグル人だった。拷問される声が監房に聞こえた。食事は、朝、中華まん、昼、おかゆ、夜、中華まんが与えられた。
 収容される前62㌔あった体重は出た時51㌔まで減ったが、それでも、後に2017年、2018年に入れられた収容所よりも待遇はマシだった。
 7月末、「子どもが重病だ」と告げられ、連れて行かれた小児病院には3人の子どもが寝かされていた。3人ともなぜか首の右側に手術された痕があった。栄養を入れるためだというがはっきりした理由は不明だ。
 翌日、遺体を引き取るようにと言われた。一番先に産まれてきた息子のムハネットが亡くなったのだった。3人のうちでは最も元気な子だった。

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一番右の長男が遺体となって返された

 いったん仮釈放になり、両親の住む実家(ウルムチから遠く離れたチュルチュン県)に身を寄せた。子どもを抱え、働かなくてはならず、警察の許可を得て仕事をしていた。夫とは連絡できず、監視下に置かれていた。
 2017年、ふたたび拘束されることになるが、その処遇は、最初の拘束とは比較にならぬほど酷いものだった。
(つづく)

国会のバリアフリー化に分身ロボット採用なるか

 きのう急に仙台に出張することになり、一泊して帰ってきた。
 新幹線から見える田んぼの緑がさわやかでうれしくなる。

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 「れいわ新選組」から重い身体障害がある2人が初当選したことを受け、いま国会のバリアフリー化が本格的に進められている。
 「筋萎縮性側索硬化症(ALS)」患者の船後靖彦氏(61)と、生後8カ月で障害を負った重度障害者の木村英子氏(54)は手足が自由に動かせない障害を抱える。船後さんは声を発することもできない。

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舩後さん(右)と木村さん

 そこで、国会に「分身ロボット」OriHime(オリヒメ)の導入が検討されているという。
 弊社のプロデューサーのIさん は、以前からOriHime(オリヒメ)の先進性に注目して取材を続け、多くのテレビ番組を制作してきた。
 去年3月にはTBSニュース23の特集「難病の校長先生を卒業式に」で、ALSの教頭先生が自宅のベッドから、「分身」であるOriHime(オリヒメ)を使って卒業式にのぞむ姿を紹介している。http://jin-net.co.jp/archives/1675

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 OriHimeは、頭部に設置されたカメラとマイクで現場の様子を伝える一方、簡単な操作で首を振ったり、拍手したりの動作をし、声を発することができる。まるでそこに本人がいるかのような存在感がある。引きこもりや病気、介護や育児などの理由で自由に外出できない人たちが、自分に代わって社会参加する可能性を広げるユニークなロボットだ。
 生みの親は吉藤健太朗さん。OriHimeは彼が大学在学中に開発。その後設立した株式会社オリィ研究所のホームページには、《オリィ研究所は、入院患者が「当たり前の日常」を取り戻し、その孤独の解消を実現するためにスタートした会社である。どうしてこの会社が生まれたのか。それは、私自身も「孤独の辛さ」を痛感した一人であったからだ。》とある。https://orylab.com/

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 吉藤さん自身が、小学校5年生から中学校2年生まで不登校を経験したことが分身ロボット誕生につながったという。彼はまだ31歳の若さだ。大きな志を掲げてものづくりに挑戦する吉藤さんと分身ロボットOriHimeの今後に期待したい。