VOTE OUR PLANET 私たちの地球のために投票しよう―パタゴニア

 金曜、私の妻が品川駅の駅前を通りかかったら、山本太郎氏率いる「れいわ新選組」が集会をやっていたという。「れいわ祭り」という総決起集会だったそうだ。かなり盛り上がっている。

f:id:takase22:20190715010240j:plain

 「れいわ」のようなアピール度の高い候補者を立てる選挙手法も、政治的無関心を打ち破る一つのやり方だろう。
 

 以下、選挙雑感。
 立憲民主党須藤元気氏は、元格闘家として知られているが、単に知名度で立候補しているのではない信念を感じさせる。とてもまっとうな主張をしていて応援したくなる。https://www.pscp.tv/CDP_okinawa/1ZkKzrAlBXrKv有田芳生議員と沖縄で)

 おや、と思う人が共産党の応援をしている。
 憲法学者小林節氏(慶応大学名誉教授)だ。憲法9条改正論者でかつては保守の論客だったはずだが、7日には激戦区の神奈川選挙区で共産党応援のマイクを握った。
《小林氏は「スジを通す、頑固な共産党にもっと伸びてもらわないといけない。自信をもって“比例は共産党”“選挙区はあさか由香”の輪を広げてもらいたい」と語りました。》(しんぶん赤旗より)
https://www.jcp.or.jp/akahata/aik19/2019-07-08/2019070801_02_1.html
 かつての保守陣営のなかから安倍政治への強い拒否感が出ていることの表れか。

 山形県の友人から、公式プロフィールにウソを書く候補は許せないとのメルマガが届いた。
 《2013年の参議院選挙で山形選挙区から自民党公認で立候補して初当選し、今回の選挙で再選をめざす大沼瑞穂(みずほ)議員は、公式サイトのプロフィールの1行目に「昭和54年生まれ。山形市七日町在住」とある。後段は真っ赤なウソである。
 本人は「住民票は山形市に移した。マンションもある」と反論するのかもしれない。が、私が問いたいのは「住民票がどこにあるか」ではない。2013年に参議院議員に当選して以来、夫と子どもはずっと東京にいる、本人もほとんどの時間を東京で過ごしている、という事実である。
 山形市の中心部に購入、もしくは借りているマンションで過ごすのは、山形に来た時だけだ。ホテル代わり、というのが実態であり、「山形市在住」とは言えない。こういうウソを平然と公式サイトのプロフィールに記す感覚が許しがたい。》
 大沼瑞穂氏は慶応大学の大学院(修士課程)を修了した後、NHKの記者になり、外務省の専門調査員(香港駐在)、東京財団の研究員、内閣府の上席政策調査員を経て、政界に転じたという。経歴はすごいが平然とウソをついてはいけない。さらに、
 《選挙区の支持者の集まりで、彼女は「山形に引っ越してきて、こちらで暮らしては」と水を向けられた際、やんわりと断り、次のように言ったという。「山形で子育てをするのはちょっと・・・」。もっとはっきり「山形は子育てをする環境にはない」と述べた、との証言もある。信頼できる自民党の政治家や党員から聞いた話なので、間違いない。》http://www.bunanomori.org/NucleusCMS_3.41Release/?itemid=775
 こんな(ひどい)ところでは、子育てできないし、暮らせない、と言い放つ人が地域の代表として国会に送られていいのか。
 彼女の父親、大沼保昭氏は、いわゆる慰安婦問題など日本の戦争・戦後責任を追及した著名な国際法学者(東大名誉教授、昨年没)で、私も著作を何冊か読んだことがある。その娘さんとは知らなかった。
 以上の情報、山形県の人は参考にしてください。


 感心させられたのが、アウトドア用品の製造販売を手掛ける「パタゴニア」。環境問題に取り組む先進的企業が、選挙に関心をもって投票しようと活発なキャンペーンを繰り広げている。

f:id:takase22:20190715010709p:plain


 スローガンはVOTE  OUR  PLANET 私たちの地球のために投票しよう
《地球の現状は危機的です。けれども同時に解決策は明確です。本当の意味で手遅れにならないために、私たち市民全員が、社会構造を大胆かつ公正に変化させようとする政治家を選ぶ必要があります。
 私たちの地球のために投票しよう》https://voteourplanet.patagonia.jp/
 投票日は全店休業。公式ウェブサイトやSNSでの情報発信、ステッカーの配布のほか、パタゴニアストアで自由に対話する「ローカル選挙カフェ」を連日開催している。

f:id:takase22:20190715010825p:plain

7月12日にパタゴニア渋谷店で午前9時から約1時間半開かれたローカル選挙カフェ

 《『ローカル選挙カフェ』とは、パタゴニアが選挙や政治を軸に、これからの社会のあり方や未来について自由に語り合える場として用意したトークイベントです。
この日は、「選挙に行く?行かない?なぜ」「ここを変えたい、こうしたらいいのに…私が気になる社会問題や環境問題」の2つのテーマを中心に、中学生4人を含む10代から70代までの29人(男性16人、女性13人)が参加。店舗のスタッフも混じった5つのグループに分かれて世代を超えたディスカッションを行いました。》
http://go2senkyo.com/articles/2019/07/12/42478.html?fbclid=IwAR2xLErkw1j-boHMKdzNGXYC48MVVDiGsbhH6KsehbSF5RSZ2u8vvgEIQSc

 こういう志を持つ企業を応援することは、社会の雰囲気を変える一助になるだろう。がんばれ、パタゴニア

政治を口にすると「危ない人」になる国

f:id:takase22:20190709120713j:plain

 梅雨時咲く花の一つ、アガパンサス。意味は、アガペー(神の愛)の花、「愛の花」である。青が涼やかだ。
・・・・・・・・・・・・
 サッカーの女子ワールドカップ(W杯)フランス大会で最多となる4度目の優勝を果たしたアメリカチームの政治的言動が注目されている。

  大会6点をあげ最優秀選手に選ばれたミーガン・ラピノー主将は、以前からLGBTで何かと尖った言動で知られていたが、今回、招かれてもホワイトハウスに行かないとケンカを売った。

f:id:takase22:20190712014415j:plain

        (最年長にしてMVP、得点王に輝いたラピノー選手)


 《米CNNの報道番組に出演したラピノーは、「私は行かないし、この件できちんと話をしたチームメートも全員行かない」「みんなで一生懸命に築いてきた土台、戦って手に入れた成果、自分たちの生き方を誰かに貸したい選手は一人もいないはずだし、みんな現政権に認められたいとも、汚されたいとも思っていないはず」とコメントした。

 チームに何人かいる同性愛の選手の一人であるラピノーは、「アメリカを再び偉大に(Make America Great Again)」というトランプ大統領のスローガンにも疑問符をつけている。

 大統領に言いたいことはという質問に、ラピノーは「あなたのメッセージは多くの人を排除している。あなたは私を除外している。私に似た人や、白人以外の人を除外している」「あなたはすべての人にとって素晴らしくなかった時代に逆戻りしようとしている。ごく一部の人には素晴らしかったのかもしれないし、今もごく一部にはそうかもしれない。だけど多くの米国人にとって、この世界は素晴らしくなんかない」と答えた。》https://www.afpbb.com/articles/-/3234499

 すごい。ただ「辞退」するだけではなく、大統領とはめざす世の中が違うから行かないのだと明言している。よくここまで言えるなあ。
 トランプ大統領が怒ってツイッターで彼女を攻撃したことは言うまでもない。

 一方、アメリカ議会の招待は受けている。《ラピノー選手が、米議会からの招待を受託したと民主党のシューマー上院院内総務が明らかにした。》
https://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2019071001000964.html

 

 実は、Wカップの3カ月前の3月8日(国際女性デー)、ラピノー選手や、女子サッカーのスター、アレックス・モーガン選手(フランス大会でラピノー選手と同じ6得点をあげた)ら代表選手28人は、米国サッカー連盟による性差別をロサンゼルスの連邦裁判所に訴えている。

 《米サッカー女子代表チームは、所属選手28人全員が原告となり、平等な賃金と労働条件の実現を求めて米ロサンゼルスの裁判所に訴訟を起こした。

 選手らは「男女の選手はいずれも、単独で共通の雇用主であるUSSFのため、チームに対する同じ職務の遂行と国際大会への参加を求められているのに、女子選手は男子選手よりも一貫して少ない賃金を支払われている」と主張。「女子選手の実績が男子選手よりも優れ、男子選手とは対照的に世界王者となったのにもかかわらず、この状況は変わっていない」と訴え、未払い給料と賠償金として数百万ドル(数億円)の支払いを求めている。》https://www.afpbb.com/articles/-/3214906

 大したものです。

 

 一方、政治をめぐっては日本はまったく異なる雰囲気だ。
 先日、上田晋也の番組が終了となった話を紹介したが、政治的発言をしたら番組を下ろされたという恐ろしい体験を、お笑いコンビ・ロンドンブーツ1号2号の田村淳が告白していた。7月6日放送の文化放送系の番組『ロンドンブーツ1号2号田村淳のNewsCLUB』(毎週土 13:00-14:55)でパックンことパトリック・ハーランと対談して。
https://radsum.com/archives/1169

田村淳:へぇ。俺はもう、ツイッターで政治のことをつぶやくのやめたんだよね。
パトリック・ハーラン:ああ、叩かれた?
田村:レギュラー失っちゃうから。
パトリック:そうなんですよね。
田村:俺、竹島問題をつぶやいたんですよ。
パトリック:おお、なんつった?
田村:「国際司法裁判所で争いましょうよ」ってつぶやいたら…
パトリック:それ、ダメなの?
田村:それ、ダメらしくって。ダメらしくってっていうか、決まってたレギュラー番組、降ろされて。
パトリック:え?それ、レギュラー番組、なんだったんですか?「今日の竹島」とかじゃないの?
田村:「今日の竹島」みたいな番組、ないでしょ(笑)そんな尖った番組、ないでしょ(笑)
パトリック:すげぇ敏感だね。
田村:うん。だから、レギュラー始まる前に降ろされたから。
パトリック:へぇ。
田村:だから、そうやって圧力かけてくるから、メディアに出る人がっていうか、お笑いタレントが言いづらくなってるよね。

f:id:takase22:20190713003149j:plain


 パックンによると、欧米では政治ネタのお笑いが普通にやられているという。政治的なことを口に出すだけで「危ない人」になっちゃうと田村淳が言っているが、こういう雰囲気は日本中に蔓延している。

 これでは若者が政治に無関心になるはずだ。どの辺から変えていったらいいものか・・・。

 

現代における報道写真の意味4

f:id:takase22:20190709110609j:plain


 オオマツヨイグサ。ガードレールそばのアスファルトの亀裂から生え出て、はっとするほど美しい花を咲かせている。よくここまで育ったな。
・・・・・・・・・・・・

 朝からテレビはジャニー喜多川氏の話。8時からのワイドショー、45分経ってザッピングしたら4局でまだその特集が続いており、テレビ界におけるジャニーズ事務所の力を見せつけていた。
・・・・・・・・・・・・
 渋谷敦志さんと今福龍太さんの対談から、続き。話は、写真を、機械ではなく人間が撮ることに及んでいく。

渋谷:
 一人で、カメラというシンプルな不完全な道具を使って、そこに行かなければ撮れない。そこに行って、人に会って、という面倒なプロセスを経なければ、写らない。それが写真。


今福:
 渋谷さんの写真をみると、カメラが撮ってるというより、人間の眼が見ている、眼が見た、眼が反応した風景であることは間違いない。
 いまや像は機械がアルゴリズムによって人間の眼を介さないで撮ってしまっている、そういう時代。人間の眼が見た像を撮り続けることが本当に大事だと思う。サルガドもひたすらそれをやり続けている。
 いまは人間の眼ではないものがあらゆるものを撮って、すぐに通信の中に取り込んで何らかの政治判断、経済的な判断をしてしまっている。人間の眼で見ている記録、その大事さをいつも感じる。


渋谷:
 肌身の感覚、実際に体を使って人に会っていくという身体感覚が与えてくれる信頼感。確実にたしかに世界に触れているという。自分が写真を続けてこれたのは、きっと生身の感覚をどこかで大切にしていたし、いまも通っているのも、その感覚を忘れたくないからかなとと思う。


今福:
 渋谷さんとは台湾で一緒にトークしたこともあった。台湾や沖縄や東南アジアの島々を撮った東松照明さんの話をした。東松さんの大切な、写真家の最後の守るべき拠点について知られた言い方がある。
 写真家は、
 医者のように治すわけでもないし
 弁護士のように弁護するわけでもないし、
 神父のように支えるわけでもないし、
 落語家のように笑わせるわけでもない、
 歌手のように酔わせるわけでもない、
 ただ見るだけなのだ。


 徹頭徹尾、徹底して観る、これが写真家で、それ以上のことはしない、それだけだ。それが写真家なんですよ。眼で見ることがますます奪われていますから、これが最初であり最後の拠りどころにしてがんばっていただきたいなと思います。


渋谷:
 見ること、学ぶことが写真をやる意味なんだろうなと思っていた。
 誰かがちゃんと自分の目で見て、その像が残ったり、それを次の誰かが見ることができる、そして誰かが何かを考える、見る人間たちの考えにゆだねる、それ以上のことを写真家は考える必要がないと東松さんはよくいっていた。
 究極の「見る」ということじゃないかな。
(対談の抜粋終わり)

 この対談は、報道写真を撮る原点は何か、今という時代の課題にどう向き合うかを考えさせるもので、とても学ぶところが多かった。ジャーナリズムの劣化が問題になっているいま、こういう議論がほんとうに必要になっていると思う。

現代における報道写真の意味3

 選挙戦が盛り上がっていない。
 新聞はそれなりに報じているが、テレビがほとんど報道しないことが気になる。本来、選挙の争点を分かりやすく提示して、投票率を上げることをめざすべきではないのか。


 ところで、上田晋也の「サタデージャーナル」(TBS)が6月で終ったが、その最終回(6月29日)で語った内容が話題になっている。https://lite-ra.com/i/2019/06/post-4807-entry.html
 「いま世界が良い方向に向かっているとは残念ながら私には思えません。よりよい世の中にするために、いままで以上に、一人ひとりが問題意識をもち、考え、そして行動に移す。これが非常に重要な時代ではないかなあと思います。
 そして、今後生まれてくる子どもたちに『いい時代に生まれてきたね』と言える世の中をつくる使命があると思っています。
 私はこの番組において、いつもごくごく当たり前のことを言ってきたつもりです。しかしながら、一方で、その当たり前のことを言いづらい世の中になりつつあるのではないかなと。危惧する部分もあります。もしそうであるとするならば、それは健全な世の中とは言えないのではないでしょうか」

www.youtube.com

 これはテレビに向けられた言葉でもある。よく言ったものだ。
 2013年6月に「上田晋也の緊急報道!」(TBS)という特番で拉致問題を扱ったとき、私はアドバイザーとして横田早紀江さんとのインタビューなどで取材をお手伝いしたことがあった。上田さんは拉致問題をきちんと勉強しており、早紀江さんとの応対も配慮をつくしたもので、感心させられた。

    タレントまで「社会派」が排除される時代なのか。https://tvtopic.goo.ne.jp/program/tbs/35124/646452/

・・・・・・・・・・・・・
 報道写真家の渋谷敦志さんと今福龍太さんの対談の続き。

 話は、時代の大きな状況に移っていく。まさに現代特有の問題で、今福さんはこれを切迫した重要な事態であると認識している。

 

今福:
 ここからさらに厳しい、大きな話になる。
 イメージ、像を搾取するという宿命が写真にはあるが、それが写真家個人の倫理や道徳をはるかに超える問題になってしまった社会、つまり、この監視社会の問題だ。像、イメージの普遍的搾取時代に突入してしまっている。
 あらゆる場所に監視カメラがあって我々の像を盗み取って、それを我々の何の許可もなく結局は権力が使っている状況。数年前、ぼくは「すべては補足されている」と言ったが、すべてはカメラによって補足されている。
 スーザン・ソンタグという批評家が、2004年にアブグレイブ収容所でイラクの人を虐待して面白半分に写真を撮ってネットに載せて戦利品であるかのように自分たちの優位性をカメラの像として世界中にばらまいた事件があったとき、これをみてthe photographs are us「写真は私たちだ」と言った。

f:id:takase22:20190707202101p:plain

2004年にNYタイムズに掲載されたソンタグの評論。the photographs are usという表現が書かれている。

 匿名性の中ですべての像を奪い取られて、それが無制限な空間に投げ出されていくという状況こそが、今の我々の存在そのものを示している、という意味で、「写真は私たちだ」といった。
 それから15年後の今は、ネットカメラ、一台一台のカメラがインターネットに全部つながって、ブラウザからすべての写真をダウンロードしてチェックできるようになっている。
 しかもカメラの性能が上がって、高度なカメラは単に「顔認証」だけではない。例えば、ロシアが開発した顔認証からさらに発達した装置では、顔の微妙な揺れや動き、振動を読み取って、ある一定の動きをしている表情は「緊張している」、「攻撃性がある」というふうに読み取る。危険人物を割り出すためのモニタリングに、そういう顔認証のシステムがつかわれていて、さらに静脈の情報とか指紋、瞳虹彩、声紋、さらにDNAまで含むありとあらゆる生体の認証システムで、高度化されたカメラによって我々は日常的につねの誰かによって補足されている状況。
 我々はそういう状況を犯罪抑止、セキュリティのためにいいことだと正当化しかけている。でもそれは一番危険なことだ。いくら犯罪捜査に役立つと言っても、カメラのもっている究極の悪辣な方向性として捉えていかなければならないと思う。
 写真にかかわる倫理の問題は、個人をはるかにこえて社会全体に偏在している。
 カメラの監視システム、テクノロジーから我々がどういう形で人間の尊厳を守り抜くかというところに来ている。つまり万人の問題になってきている。
 渋谷さん、個別の局面での模索は、究極的にはそこまでつながっている。そこを写真家にはもっと自覚的にいてほしい。そこまで自覚して写真を撮っている人は少ないかもしれない。

渋谷:
 最近のスクールバスの事件(5月28日川崎で19人が殺傷された事件)で取材するメディアが、こころない取材だと批判されてましたけど、それを支えている視聴率であったり、人の関心であったりする。そういうことが、監視されて自分を縛っている状況に加担してしまっているのかなと。

今福:
 アフリカ、ミャンマーで渋谷さんが長年こだわって一人の少女を追いかけて、個人とのかかわりの中で、苛烈な現場とかかわり続けている。
 そういう個人としての写真家と場所にいる個人のかかわりというよりもっと大きな匿名の眼がいて、それがわれわれ全員の像を365日24時間奪い続けているということも感じていかなくてはならいのではないか。
渋谷:
 ぼくも答えを持っていないが、自覚しているとしていないとは違うと思う。
 つねに先生からはこういう楽しい学びや気付きを与えられる。
今福:
 ぼくらが問題化すべきは、あきらかにそちらの方であって、一人の個人の問題はそんなに巨大な実存的な問題として捉える必要はない。
 我々はもっと大きな力にやられそうになっている。
(つづく)

 

小暑雑感

 一年の半分が過ぎた。月は文月。節気は小暑(しょうしょ)。ということはもう暑中見舞いを出すころか。おいおい、このスピードでは残り時間がもうないな、ぼーっと生きてんじゃねえよ、と自分を叱咤したくなる。
 7日から初候「温風至」(あつかぜ、いたる)。次候「蓮始開」(はす、はじめてひらく)が13日から。18日からが末候「鷹乃学習」(たか、すなわちわざをならう)。
 いよいよ夏本番だ。
・・・・・・・・・・・・・
 この間のご縁のある人についての消息など。


 7月3日は、森本喜久男さんカンボジアで廃れかけた伝統の絹織物を復興させた―の命日だった。亡くなってまる2年になる。https://takase.hatenablog.jp/entry/20170703
 森本さん亡きあと、彼が作った「伝統の森」という織物の村の活動は衰えずに続いているのはうれしいことだ。フェイスブックもひんぱんに更新されている。https://www.facebook.com/iktt.kh/
 またいつか村を訪れたいものだ。

f:id:takase22:20190707020141p:plain

 ジャーナリストの常岡浩介さん書類送検された。
 《2014年に過激派組織「イスラム国」(IS)に参加するためシリアへの渡航準備をしたとして、警視庁公安部は3日、私戦予備容疑で、当時北海道大生だった男性(31)ら5人を書類送検した。同容疑の適用は全国で初めて。公安部は起訴を求める厳重処分の意見を付けた。》
 この5人の一人が常岡さん。「事件」から5年の時効切れが迫るなか警察が動いた。

 常岡さんは4月24日、旅券返納命令の取り消しを求めて国を相手に東京地裁に提訴している。https://takase.hatenablog.jp/archive/2019/04/24
 安田純平さんも帰国して旅券を申請したが発給されないままだ。渡航の自由だけでなく、言論の自由、国民の知る権利にもかかわる大事な問題だ。注目していきたい。
https://takase.hatenablog.jp/archive/2019/06/07

 

 「金正日の料理人」藤本健二さんの消息が絶えたとのニュースが、先週から流れている。
 《北朝鮮の故金正日総書記の料理人で平壌渡航した藤本健二氏の所在が、6月ごろから確認できないことが日朝関係筋への取材でわかった。日本政府も同様の話を把握しており、情報収集を続けている。
 政府関係者によると、北朝鮮当局から、国家機密に関わる情報を外部に漏らしたと疑われ、拘束されたという情報もあるという。拘束が事実なら、政府は今後、北朝鮮に同氏の解放を求めていくとみられる。
 藤本氏は、1982~2001年に通算13年間にわたり、正日氏の料理人として北朝鮮に滞在。金正恩朝鮮労働党委員長が幼い頃に遊び相手も務めた。12年7月と16年4月にも正恩氏と面会。16年夏から北朝鮮に再び渡り、平壌市内で日本料理店「たかはし」を経営していた。》(朝日新聞、6日)
 私は早いうちから彼がもつ内部情報に注目して取材していた。そのうち親しくなって一緒に飲む機会も増えた。酔うと、北朝鮮に残してきた妻子を思って泣いたり、とても公表できない驚くべき打ち明け話を聞かせてくれたものだ。彼が北朝鮮に戻ることにはリスクが伴うと心配したのだが、彼は「大将」(金正恩)を信じて移住した。
 彼が平壌に出した寿司屋「たかはし」も閉店しているという。収容所行きに近い処分でなければよいがと懸念している。

 

 尊敬する写真家、鬼海弘雄さんが、写真集『『PERSONA最終章』を刊行したことは前に書いたが、今月下旬には『ことばを写す 鬼海弘雄対談集』が平凡社から刊行される。https://www.heibonsha.co.jp/book/b455001.html
 対話の相手は、山田太一荒木経惟堀江敏幸田口ランディ青木茂池澤夏樹など。

f:id:takase22:20190702142838j:plain

 鬼海さんは文章もすばらしくトークも味わい深い。「哲学する写真家」がどんな対話をするのか、楽しみだ。

おもしろいぞ!れいわ新選組

 参議院選挙だ。
 立法府安倍内閣の横暴を全くチェックできない危機的な現状。与党の自公そして維新を一議席でも減らさなければ。1人区での野党共闘に期待したい。

     比例区で注目したいのが「れいわ新選組」。山本太郎代表が、とんでもない選挙方針を発表した。

f:id:takase22:20190704234014j:plain

比例区1位の舩後氏と山本太郎

 前回東京選挙区で当選した山本氏が比例代表から出馬する。しかも今回の参院選から導入される「特定枠」を用い、最低350万票ないと自身が当選できないようにした。まさに「背水の陣」、退路を断ったわけだ。
 《「特定枠」は比例区で個人の得票と関係なく、優先的に当選できる制度。山本氏はこの枠の1位にALS(筋萎縮性側索硬化症)患者で全身まひギタリストの船後靖彦氏、2位に全国公的介護保障要求者組合書記長で重度の身体障害がある木村英子氏を割り当てた。「れいわ」がどんなに得票しても、山本氏の当選順位は3番目以降となる。過去の参院選の例では、比例区で3議席獲得するためには約350万票の得票が必要となる。
 山本氏は「(特定枠の2人を)優先的に国会に送りたい。2人が受からないと山本太郎は受からないっていう話ですよ。背水の陣。身を切る改革ってこういうこと」と説明した。》
 他に、女装で知られる東大教授、安冨歩、「セブン・イレブン」オーナーを9年つとめたコンビニ加盟店ユニオンの元副執行委員長の三井義文氏北朝鮮による拉致被害者蓮池薫氏の兄、蓮池透などを擁立するという。

f:id:takase22:20190704234206j:plain

安富歩教授

 また《東京選挙区には、創価学会員で現執行部を批判している野原善正氏を擁立。同選挙区から出馬する公明党山口那津男代表との“直接対決”に、野原氏は「山口さんには自分の胸に手を当てて、師匠(池田大作名誉会長)に顔向けできますか?と聞いてみよう」と意気込んだ。》https://news.livedoor.com/article/detail/16721946/
 創価学会員を擁立することは、現在の公明党が「平和の党」の理念に反するとの学会内の声に呼応する動きだ。野原氏は沖縄創価学会壮年部。沖縄で公明党の県本部が辺野古反対を打ち出すなど、創価学会内でも矛盾が大きくなっているいま、注目したい。

 山本太郎氏については、彼の放射能に関する言説に私は批判的だったが、近年「不法滞在」とされる外国人への処遇など他の議員が取り上げない重要な問題に取り組むなどの行動を見て、彼のような議員はぜひいてほしいと思うようになった。
https://takase.hatenablog.jp/entry/20180801
 今回の参院選への関心はいま一つ。
 そのなかにあって、「旬の人」を擁立する「れいわ」の選挙戦術は劇場型で、注目を集めるには効果的だ。

 「世界を変えるのは、いつの時代も”空気を読まないバカ”である」と山本氏を応援する雨宮処凛氏が言っているが、空気を読みすぎる今の社会の雰囲気はもうけっこう。  

 「れいわ」の動きにはワクワクさせるものがある。選挙をお祭りにするのもおもしろい。
・・・・・・・・・
 一つお知らせ。アムネスティが以下の集会を開く。在日ウイグル人が初めて実名で中国当局の人権侵害を訴える画期的なイベントだ。少しでも実態が知られるようになってほしいと思う。関心のある方はぜひ。

 ウイグル人証言集会~中国新疆ウイグル自治区ムスリム強制収容を語る~
 2009年7月5日の大勢の死者と行方不明者を出したウルムチ事件から、すでに10年が経とうとしています。新疆ウイグル自治区の人権状況は、悪化する一方です。
ここ数年、中国北西部の新疆ウイグル自治区では、テュルク系ムスリム、特にウイグル人が、突然公安警察などによって、教育施設をかたる収容所へ、強制的に収監される事例が大量に報告されています。
 強制収容所には、世界的に著名な大学教授、芸術家、スポーツ選手などから農民、商人まで、ありとあらゆるムスリムムスリマが収監され、拘束者数は、ゆうに100万人を超えると言われています。劣悪な施設では、思想改造教育や拷問が行われ、死者も膨大な数にのぼっていると推察されます。
 今回、日本在住ウイグル人が初めて、こうした公の場に実名で登壇し、自身や家族に何が起こったか、生の声をお伝えします。
 また、強制収容所から奇跡的に生還したウイグル人女性が、インターネット中継の形で参加し、彼女にも現地の情勢を語ってもらい、新疆ウイグル自治区の人権状況を皆で考える場としたいと思います。
https://www.amnesty.or.jp/get-involved/event/2019/0706_8145.html

周庭「暴徒はいません。あるのは暴政だけです」

 香港の逃亡犯条例改正案をめぐる問題で、1日、デモ隊の一部が立法会庁舎のガラスを割ってなだれ込み、約3時間にわたり占拠。設備を壊すなどした他、林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官の辞任や、改正案の撤回を要求する落書きなどもしたという。
 これに対して日本では一斉に批判の声が上がった。いくらなんでも暴力はいけない、市民の支持を失い運動が先細りする、当局による弾圧や中国の介入の口実を与えるなどと。
 “民主の女神”周庭(アグネス・チョウ)さんはどう言っているのかと興味があった。
 きのうのツイートで、彼女は「暴徒」とされたデモ隊を完全に支持し、応援している。https://twitter.com/chowtingagnes

f:id:takase22:20190704015320p:plain

 周庭さんの連続ツイートはまず、順を追ってなぜこのような行動に出ざるを得なかったのかを説明する。
「1. この一ヶ月は、香港人にとって長い一ヶ月でした。香港人は署名運動を行い、新聞広告を掲載し、100万人、200万人のデモを行い、私たちの民主と正義に対する強い意志を示し、全ての手を尽くしました。志を同じくする人3名は、自死によって政権による民意の無視に抗議することさえしたのです。」
「2. 昨日のデモに参加した人たちは、皆香港を強く愛し、制度の改革を実現したいと願う香港人です。立法会への突入によって訴えるという手段に出たのは、過去一ヶ月、過去10年、20年にわたって、香港政府と中国共産党政権が香港市民の願いと、私たちの民主に対する訴えを全く尊重しなかったためです。」
「3.香港 政府は繰り返し「暴力」との言葉で昨日のデモを形容しています。しかし、香港政府には暴力を譴責する資格は全くありません。6月12日、邪悪な警察が、全く正当性のない暴力行為を、武器を持たない群衆や、記者に対しても行ったことは、全世界が目にしたところです。」

 ついで「暴徒」とされた仲間の行動が抑制されたものだったことを揚げて擁護する。
 「彼らはただやりたい放題に立法会を壊したのではないのです。彼らは立法会の歴史的な文物や、図書館には「壊さないで」との張り紙をし、立法会のレストランには「私たちは泥棒ではない、万引きはしない」と書いて、飲み物を飲んだら代金を置いていったのです。真の「暴徒」であれば、文物を保護などするでしょうか。過酷な環境の中で、これほどの理性を保てるでしょうか。」

f:id:takase22:20190704015458p:plain

 そして、「暴徒」と批判するであろう我々読者に、「暴力」とは何かと問いかける。デモ隊の暴力にではなく、権力側の構造的で巨大な暴力にこそ目をむけよという。
 「過去二十年、香港人は全ての方法を尽くしました。一度、また一度と、あきらめずに訴えてきました。しかし、政府はこれを聞いたり、尊重したりしたことがありません。
 たとえ三人の若者が自殺しても、政府はこれに反応を示しません。一言の反応もないのです。多くの若者にとって、これは香港の最後の重大な局面です。彼らは自分の命を賭けてまで、真の民主と正義を得たいと考えています。あなたはこのようなデモのやり方に賛同しなくても結構です。」
 「しかし、若者をここまで追い詰め、彼らを死によって訴える行為にまで駆り立てているのは、この恥知らずの殺人政権なのです。」
 恥知らずの殺人政権・・・この言葉の激烈さはどうだ。
 「暴徒はいません。あるのは暴政だけです」
 「巨大な権力と巨額の財政を手にした政府は、強大な国家のマシーンを使って人々の体を傷つけ、人々の意志を抑えつけます。(略)彼らは香港の制度と価値、さらに若者の命を破壊しているのです。」
 これに比べれば、デモ隊の「暴力」など何でもないというわけだ。
 そして結論 
 「9. 私たち香港人は、昨日の出来事を経て、香港人であることをさらに誇りに思っています。今後も、私たちは勇気と、誠実さと、愛を持って、香港のために戦います。」

 

 恥ずかしながら、周庭さんたちが持つ憤りの巨大さに驚いた。一つには私自身の香港情勢と人々の心情についての無知にもよるだろう。
 「命をかけて闘っています」という彼女たちの言葉の本気度に気圧される思いがする。もっと香港のことを知らなければ。
 しかし、あらためて、香港の若者すごいな。