カナダが人権問題で中国を批判

 水無月。きょうから節気は芒種(ぼうしゅ)。穀物の種をまくころという意味だそうだ。
 初候の螳螂生(かまきり、しょうず)が6日から。次候の腐草為蛍(くされたるくさ、ほたるとなる)が11日から。16日からが末候、梅子黄(うめのみ、きばむ)。昔の人は草が腐ってホタルになると思っていたらしい。サクランボも出てくるころだ。

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 毎朝通る通勤路にタチアオイが咲いた。夏が来たと知らせてくれる花だ。毎日次々につぼみが開いてあでやかになっていく。きょうは暑かった。
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 天安門事件30年に関連して「カナダ首相が中国を人権問題で非難」との記事が出た《中国の民主化を訴えた学生らが軍に弾圧された天安門事件から30年を迎えた4日、カナダのトルドー首相は「人権に関する中国のふるまいを深く憂慮している」と語り、新疆ウイグル自治区での少数民族の収容をやめるよう求めた。中国側は「ひどい内政干渉だ」と反発した。
 トルドー氏はバンクーバーで記者団に対し、「人権」という言葉を何度も使って中国を批判。「節目のこの日に、またこれから先も人権をより尊重するよう求める」と語った。フリーランド外相も声明で、天安門事件で殺害されたり、拘束されたりした中国国民について説明するよう求めた。》(朝日新聞
 カナダ当局は昨年12月、米国の要請で華為技術(ファーウェイ)の幹部を逮捕、すると5月には、中国当局がカナダ人2人を国家機密を盗んだなどとして逮捕するなど、激化する両国の対立が背景にあるが、人権に関して原則的な立場を明らかにする姿勢は見習いたい。
 天安門事件民主化運動を武力弾圧したことへの抗議として、欧米が中心になって対中制裁を続けていたとき、先進国でいち早く制裁破りをして経済支援を再開したのは日本だった。対立はよくない、友好を求めよといいながら、弾圧した側に立ったことになる。あの時の対応は厳しく反省すべきだ。
 中国ではチベット弾圧に続き、ウイグル人に対して、「民族浄化」と言ってもいいほどのすさまじい人権抑圧を続けている。ところが中国の経済力の前に国際的な批判が鈍りがちになっている。(「『突然連行、小部屋に40人』ウイグル族迫害の実態訴え」=朝日新聞https://www.asahi.com/articles/ASM5G62KGM5GUHBI02D.html
 中国マネーはさらに、専制的体制を海外に「輸出」する結果を招いている。例えばカンボジアだ。フンセン政権がここ数年で急激に独裁化した背景には、権力層と中国資本との癒着がある。「開発」の名のもとに居住地から住民を追い出し、その土地で中国資本とつるんだプロジェクトが進められる。その住民強制移住を追い続けたのが土門拳賞をとった高橋智史さんの『RESISTANCE カンボジア 屈せざる人々の願い』である。中国がバックにいるかぎり、フンセン政権は、欧米からの非難や制裁などぜんぜん怖くないのだ。
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 私はテレビでメシを食っているのに、テレビに出てくる人を知らない。俳優や歌手、芸人の名前もよくわからない。そこに今朝、南海キャンディーズ山里亮太が女優蒼井優と結婚したというニュースが報じられた。
 ツイッターをみて思わず笑ったのは;
 「おれが蒼井優と思っていたのは宮﨑あおいだったしおれが宮﨑あおいだと思っていたのは二階堂ふみだったしおれが二階堂ふみと思っていたのは蒼井優だったしおれが蒼井優だと思っていたのは黒木華だったので今回の件で目盛りのズレをひとつ直した」https://twitter.com/hironobutnk/status/1136121982615838721
 これ、まったく同感。これからは蒼井優だけは間違えないぞ。

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これは黒木華。まぎらわしい。

 

天安門事件から30年

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 写真家の鬼海弘雄さんがツイッターで配信する「今月の1枚」、6月はこれ。
 鬼海さん、先月末にホームページも開設した。ツイッター、インスタグラムに続いてネットでの発信を広げている。見習わなければ。https://hiroh-kikai.jimdofree.com/
 最新情報では以下のお知らせが載っている。

寒河江市美術館で鬼海弘雄の「PERSONA」写真展が開催(6月末まで)
滋賀県ボートアートミュージアムで「忘れようとしても思い出せない」というグループ展が開催され鬼海弘雄の作品も飾られます。(6月8日から)
・2019.06.01にBRUTUSという雑誌に鬼海弘雄のインタビュー記事が掲載。

 6月中に山形に帰省する機会があれば、寒河江市の写真展をのぞいてみたい。
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 きのう6月4日は天安門事件30年だった。
 香港では「香港市民支援愛国民主運動連合会」(支連会)が主催する追悼集会に18万人(警察発表では3万7千人)が集まったという。

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 これは香港の活動家、「民主の女神」と呼ばれた周庭=アグネス・チョウのツイッターで、彼女はアニメで覚えた日本語で発信している。https://twitter.com/chowtingagnes#

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 香港では例年よりはるかに多い参加者で、集会は大きな盛り上がりを見せたが、民主化の活動は「曲がり角」に来ているとの指摘もある。
 《中国の民主化を求めた学生らが武力弾圧された1989年の天安門事件から30年を迎えた4日夜、香港で大規模な追悼集会があった。参加者らはろうそくを手に、関係者の名誉回復などを訴えた。主催したのは香港の民主派団体。若い命が奪われた悲劇を繰り返してはならないと事件後、毎年開いてきた。》
 《支連会は、香港市民も中国本土の住民も「同じ中国人」との立場から祖国の民主化を訴えてきた。
 しかし、2014年の民主化デモ「雨傘運動」が抑え込まれて以降、香港の若者の間で反中感情が広がり、「自分は香港人」とのアイデンティティーが強まった。中国本土の民主化より香港の民主化が先だと考える若者が増え、香港大など主要大学の学生会は、支連会の集会への参加を見送るようになっている。
 支連会の何俊仁主席は朝日新聞のインタビューに、「香港が中国の民主化運動で果たしてきた役割は大きい。毎年、何千万人もの中国人が来て、集会や言論の自由を目撃している」と活動の意義を語る。一方、自分たちの活動が、中国本土との違いを強く認識するようになった若者の共感を得られなくなっていることへの危機感を隠さず、「若者との交流を増やし、私たちの活動を理解してもらうしかない」と述べた。》(朝日新聞
 一方、北京では厳戒態勢がとられ、海外メディアは天安門広場への入場が禁止された。
 中国の民衆の間では、天安門事件は次第に忘れられ、関心を持たない人が多くなっているといわれる。当局の徹底した言論封殺に加えて、人々の関心がもっぱら生活の豊かさへと向かっているからだという。
 米国の異常な華為(ファーウエイ)叩きは、中国が最先端の産業のいくつかで世界のトップに躍り出たことへの危機感を表しているが、中国はどこまで奇怪な体制のまま覇権を強めていくのか。憂慮しないわけにはいかない。

NHKのスクープ記者に何が起きたのか5

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 朝刊一面トップ。久々に「森友」が大見出しになった。
 森友学園への国有地売却の問題が大きく取り上げられる端緒となったのは、売却額を不開示としたことに対し、木村真豊中市議が情報開示を求めて裁判を起こしたことだった。https://takase.hatenablog.jp/entry/2019/05/26/115716

 メディアや国会での追及で国は開示に応じたため、木村さんは訴えを精神的苦痛に対する損害賠償請求に切り替えて裁判を続けていたが、きのう、大阪地裁は国が不開示としたことは違法だと判断し、国に3万3千円の支払いを命じた。
 しかし、木村市議は判決に大きな不満を感じている。

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「勝訴」と「不当判決」が並ぶ。右端が木村真市議。

 《森友学園の国有地取引をめぐる問題で、大阪地裁は売却額を一時不開示とした国の決定を違法と判断した。しかし、原告の市議の表情は晴れなかった。大幅に値引きされた経緯の真相は明らかにならず、もどかしさを募らせた。
 松永栄治裁判長が判決を読み始めると、原告で大阪府豊中市議の木村真さん(54)は万歳のポーズをとった。しかし聞き進むにつれて、表情を曇らせた。その後、大阪市北区で記者会見し、「すっきりしない。予想していない判決だった」と話した。
 売却価格の不開示については木村さんの主張通り、違法と認められた。一方、売買後に地中からごみなどが見つかっても国の責任を免除する条項の不開示については「合理的な根拠がある」とされた。
 判決は、判断の前提として国有地に「相当量のごみがあった」と認定した。木村さんは、国が約1億3千万円をかけて地下3メートルまでの大きなごみを撤去したのに、「新たにごみが見つかった」として大幅値引きされた経緯に触れ、「(裁判長が)肝心なところを理解していない」と憤った。
 木村さんは大学卒業後、会社員などを経て、2007年の市議選で初当選。労働問題やひとり親家庭の生活支援に無所属で取り組んできた。「物言う市議」を自任する。
 国は15年5月、豊中市にあった国有地の貸し付け契約を森友学園と結んだ。その後、工事中に地中から「新たなごみ」が見つかったとして16年6月、鑑定価格から8億円あまりを差し引いた1億3400万円で森友学園に売却した。
 地元議員として国有地の使途に関心を持っていた木村さんは、15年の暮れ、現地の掲示板で小学校の建設計画を知った。名誉校長には安倍晋三首相の夫人、昭恵氏が就いていた。
 幼稚園の運営経験しかない学園に小学校が開校できるのか。近畿財務局に貸付料や売却価格を尋ねても返答を拒まれた。16年9月、売買契約について近畿財務局に情報公開請求したところ、「契約相手の利益を害する」などとして、価格などが黒塗りにされた。17年2月8日に提訴した。
 国はその2日後、報道や国会議員の追及を受け、森友学園側の了解を得たとして売却価格を明らかにした。裁判では半年後の8月になって開示に転じ、「訴えの利益が消滅した」として請求の却下を求めた。木村さんは訴えを損害賠償に切り替え、裁判を続けた。取引の真相を明らかにしたいとの思いがあった。
 売却交渉を担当した近畿財務局の管理職の証人尋問を申請したが、国が「体調不良で出廷できない」と反対して実現しなかった。
 木村さんは「森友問題は、誰もきちんと責任を取っていない」と指摘する。今回の判決に納得がいかず、控訴を検討しているという。》(一色涼、吉村治彦)
https://www.asahi.com/articles/ASM5X4GW4M5XPTIL00T.html

 森友学園事件は、まだまだ終わっていない。報道の役割や世直しについて相澤さんは語る。

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    報道の使命は、事実をちゃんと伝えられるか。権力に不都合な事実もちゃんと伝えていくことだ。
 よく、報道の役割は権力の監視だというが、その言い方には抵抗がある。「監視」はもともと権力側の言葉で、権力が普通の人々を監視する。その権力を報道が監視するとしたら、報道は権力より上なのか。上から目線を感じてしまう。
 そうではなく、権力を監視するのは皆さん国民一人ひとりだと思う。そして、市民が権力を監視できるように、その材料となる事実を提供するのが報道の役割ではないか。それをちゃんとやっていると答えられる報道機関がどれだけあるか、こころもとない。
まったくできていないわけではない。NHKも相当ちゃんとやっていると思う。ただ、そうでない部分があり、しかもその「ない部分」が一番肝心なところだったりするから、みなさん不満があるのだと思う。
 では、市民一人ひとりに何ができるか。基本は「声をあげること」が一番だし、実際上それしかない。権力はもとより、NHKや報道機関に対して声を挙げることが一番ですべてだと思う。
 自分たちなんか声を挙げても全然聞いてもらえないだろうと思うかもしれないが、NHKでの私の経験からいうと、意外と効いている。「視聴者ふれあいセンター」に来た電話、メール、ファックスは全部集計されて上に上がっていく。それがある程度まとまった件数になると、現場にフィードバックされてくる。
 例えば、最初に森友学園の事件がはじまったときに、関西では放送されたが全国放送にはならなかった話をしたが、その後なぜ全国放送されるようになったか。民放がわーっとワイドショーなどで放送しているのに、なぜNHKは全国放送をしないんだ、森友について一切報道しないのはけしからんと、具体的な苦情がたくさんきた。そうするとNHKは視聴者の声に応えようと、現場に「森友をちゃんと報道しろ」と指示がきた。そこで、手の平を返したように、これまで何もやってなかったのがとたんにワーッとやるようになった。そのあたりがNHKは「役所」だなと思うが。(会場笑)でも少なくともみなさんの声で変わった。
 苦情を言うときは具体的に言ってほしい。いついつ放送のこのニュースのこの部分はこうだからけしからんと。漠然と「NHKは安倍政権寄りだからけしからん」だと、単なるクレームになり、あまり一般論だと相手にされない場合もある。集計して報告されるのは、何について苦情を言っているのか分かる苦情だ。
 できればいいところも言ってほしい。良いニュース、良い番組だってある。電話を受けるのも人間、集約されたものを受け取るのも人間。批判ばかりされるといやになるが、良いことを言ってもらうとほっとして、逆に批判も聞きやすくなる。「この人はちゃんと誉めるべきところを誉めてくれてる。じゃ、こっちも読んでおこうかな」とそういうところが人間の心理としてもある。というふうに皆さんの声を積極的に届けることが重要だ。NHKに対しては、安倍政権だけでなくどの政権にも対峙していけよと伝えていきたい。
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 以上、25日の相澤さんの講演から一部を紹介した。実にまっとうな考え方であり、大いに勉強になった。NHKのどこがどのようにおかしくなっているかもよくわかった。

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 講演のあと、せっかくだからと著書にサインをもらいにいったら、揮毫の言葉は「取材は愛」だった。取材対象と、思想信条ではなく人間として分かりあえることが大事だという意味らしい。その信頼関係からスクープが生まれたのだろう。学ぶべき取材者の心構えである。

NHKのスクープ記者に何が起きたのか4

 オーストラリアの旅から。
 帰国便は、シドニー空港での乗り継ぎに時間がたっぷりあり、昼食をかねて街に出た。木々の葉が色づき、南半球は秋である。

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シドニーのシティホール前。古い建物と超高層ビルが共存している。きれいな街並みである。

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埠頭で弾き語りをやっていたおじさん。

 街を歩いて気づいたこと。
 白人以外の人が、私が思っていたより多い。特にチャイニーズは目立っている。
 日本の存在感も大きい。通りを走るは日本車が圧倒している。酒屋にビールを買いに行ったらアサヒ、キリン、サッポロがそろっていた。日本に行ったことがある人もとても多い。日本に親しみを感じている人に出会うことが多かった。滞在中、毎日のようにどこかで「コンニチワ」と日本語で声をかけられた。
 シドニーでたまたま話をした若い男性に「オーストラリアは親切な人が多いね」というと、「いや、日本人こそ親切だよ。僕は日本が大好きで、毎年行ってる。もう7回訪問した。将来は日本に住みたい」とべた褒めだった。ごく限られた地域での短い滞在での印象だが、これまで訪れた国のなかでは親日度は3本指に入る感じだ。(残りの二つはイランとトルコ)
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 森友学園問題の取材でNHKを事実上追い出された記者、相澤冬樹さんの講演つづき。

 NHKを追い出されたということは、相澤さんは「左翼」記者なのかと思うかもしれないが、大間違い。
 「明治維新のふるさと」山口県が初任地で、吉田松陰を心から尊敬し、「松陰神社のカレンダーを自宅はもちろん職場にまで飾る、自他ともに認める『真性右翼』の記者である」と相澤さんは自らを言う。(著書『安倍官邸VS.NHK』P21)酒場で軍歌を歌うこともあるそうだ。
 相澤さんはジャーナリストの心構えについても講演で語っているが、まっとうな報道人であるかどうかは、右翼、左翼に関係ないことがよく分かる。報道と民主主義というテーマにかかわる部分を紹介する。
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 こんな仕打ちを受けるとは思っていなかったが、今でもNHKを愛している。
 31年間受信料で取材し、記者として育ててもらった。いい仕事をしたという自負もある。志あっていいものを一生懸命制作している仲間たちもいる。さまざまな圧力のなかで苦しんでいるが、それは一部の上層部のやっていることで、NHKの組織全体もしくは仕事している人の責任とは違う。これからもNHKを応援していきたい。


 NHKの報道はけしからんと思っている人は多いと思うが、ほとんどのニュースはまともだ。ただ一部に、主に政治報道の分野だが、おかしなことがあり、とくにこのところ、べったり政権寄りといえるような報道があるのは間違いない。ちょっとでもおかしなことがあったら、全部がおかしく見えるものだ。これはまずい。
 もっとまずいと思うのは、悪しき前例を作ってしまうこと。安倍政権が終わったら誰かが別の政権を作る。与党か野党か別にして。では新しく政権を取った人はどう思うか。君たち、安倍さんのときはこんな報道してたでしょ、おれのためにはやらないの?(会場笑)
 政権が変わったら、またそっちの政権べったりにならなければならなくなる。それでは、まずいわけだ。公共放送として、どこが政権を持っていようが、ちゃんと公平中立にやりますということでみなさんから受信料いただいているわけだから。でもこの悪しき前例を重ねるとそれができなくなる。視聴者から信頼を失って、受信料を払ってもらえなくなることにつながるので、これは早く変えないとまずいなと心配している。

 

 官邸の圧力は、NHKにかぎらず、民放とか新聞の方に聞くと、なにかしらあるそうだ。もしくは忖度(そんたく)。よく安倍総理が、報道機関のお偉いさんとか社長さんと夕食したりが動静欄に載る。ああいうことの積み重ねだ。介入してくるのがムチだとすれば、ああいう人間関係作っていくのはアメの部分。アメとムチの両方で報道介入しているといえる。
 

 そもそも記者は何を目指すのか。
 東大入学式での上野千鶴子さんの祝辞が話題になっている。新入生に、優秀だから入学できたのではなく、恵まれているからここにいる、あなたの力を恵まれない人のために使ってほしいと言った。私を含め、大手マスコミの記者は恵まれている。(相澤さんは東大法学部卒業)恵まれていることにも気がつかない。恵まれてきたことを世の中に還元していかなくてはならない。

 ネタ(情報)をとってくるのがいい記者、とマスコミの世界ではよくいわれる。だが、そうだろうか。ネタさえとってくれば汚い手段をつかってもよいとなりかねない。何のために取材して何のために報道するのか、が二の次になりかねない。
 「リーク」という言葉がある。リークは、権力側の人が自分に都合のいいように情報を特定の記者にもらすこと。リークは危険で、あくまで記者は「情報を取ってくる」という姿勢が大事だ。権力から情報を取って来るにしても、権力にとって都合の悪い情報を取って来るのが大事だ。
 何のために情報を取って来るのかを考えてください、というのが私の持論。結局、世のため、人のためにということ。これが、自分が恵まれていることを世の中に返すということだ。要は弱者の声をちゃんと伝えようということだ。
(つづく)

NHKのスクープ記者に何が起きたのか3

 節気は「小満」。陽気盛んにして万物ようやく長じて満つ。あらゆる命が満ちていく。農作業も忙しくなる。
 21日から初候「蚕起食桑」(かいこおきて、くわをはむ)。26日から次候「紅花栄」(べにはな、さく)。末候「麦秋至」(むぎのとき、いたる)が6月1日から。

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真夏日が続いた週末、武蔵国分寺公園で「てのわ市」という市民の催しが開かれた。

 日曜、30度を超す暑さのなか、近くの公園のマルシェに行く。木漏れ日に40人のクラフト作家のブースが並んだ。余暇の時間で作品をつくるアーティストが多いことに驚く。涼しそうなアロハシャツを衝動買いしてしまった。

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 トランプ大統領が来日している。尻尾をちぎれるほど振っての歓迎ぶりは、こっちが恥ずかしくなるほどだ。世界にはどう見えるのか。
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(相澤冬樹さんの講演から、続き)

 去年の4月のこと。
 その前の3月2日に「朝日新聞」が公文書の改ざんの特ダネを出した。森友事件で国有地の売買取引の決済文書を書き変えていた。安倍昭恵さんなどの名前も消していた。大問題になって、また森友が国会で火を噴いた。NHKでも心ある記者が取り上げようとなって、放送は4月4日にやることに決まった。
 改ざんは大問題だし、それをきっかけに番組をやるのはいい。ただ、朝日新聞の特ダネに乗っかって番組にするのは恥ずかしい、何とか自分たちで上乗せできる情報を付け加えて放送したいと思った。それで取材したら、財務省森友学園に口裏合わせを求めていたことが分かった。
 改ざんをしているのとちょうど同じ時期。財務省の担当者が、森友学園に電話して、トラック何千台分のゴミを運び出したことにしてほしいと言った。当時、国会で野党から追及されている。8億円値引きしたということはトラック4千台分くらいのゴミを運び出さないとならないぞ、ほんとにそんなに運び出したと確認したのかと追及されて、当時の佐川理財局長が確認していませんと答えている。
 確認できるわけがない、運び出していないのだから。それではまずいと思って、佐川さんの部下が森友にウソついてくれと電話してきた。森友側は、「そんなことしていないからできません」と。財務省がウソをつかせようとして、森友の方がまっとうに答えている。「ウソをつけません」と。これはいかに財務省がまずいことをしたと認識して、ごまかそうとしていたかを示している。

 この口裏合わせの事実は、改ざんと全く同じで、その同じ流れの中にあるから価値がある。「クローズアップ現代」の放送日が4月4日。当日はその前の「ニュース7」で出して、その後「クロ現」で放送しようとなった。
 ところが、その日になって報道局長が「これは出させない」と言いだした。
 出させない理由は、その日、野党の某議員が永田町で、きょうNHKが森友で特ダネ出すから見るようにと言っていたらしい。野党に情報が漏れているという。でも情報がもれたとしても、その情報が間違っているわけではないし、少なくとも私はその議員は見たことも会ったこともない人で知らない。これを理由に出させないというのは、あまりにも不当だと、私だけでなく一緒に仕事をしていたデスクや上司が報道局長と掛け合った結果、何とか出せるということになった。だが、放送は「ニュース7」の一番最後の項目だという。
 ニュースはだいたい重要な順に並べる。だから大事な特ダネは最初にもってくる。それが一番最後だという。その日はたまたま4月にしてはすごく暑い日だった。暑さもニュースになっていた。その暑さよりも下、一番目立たないところで放送した。
 もっとひどかったのは、その後の「クローズアップ現代」で、そこで放送するために準備してきたのに放送させないという。その理由は、野党議員が「ニュース7」と「クロ現」で放送すると言ってたから、そのとおりにはできないからだという。屁理屈だが、結局、それが理由で肝心の「クロ現」では放送されなくなってしまった。あまりにも悔しかったので、番組編集室に乗り込んで、どうして放送させないんですかと言った。私の本のオビにある「なぜ放送されないんだ!」はこの時の言葉だ。
 そのような形で、目立たなく放送されたが、そのあとネットを見たら、書き込みで「これまでのNHKのことを許したる」とあった。これはつまり、日頃のNHKの報道に不満を持っている人が、政権に都合の悪いニュースをやると「許してやる」と言ってくれたということで、反対側にいた人をこっち側に近づけたわけだ。視聴者に伝わったことで自分もとてもうれしかったし、受信料でなりたっているNHKにとっては、こういうことの積み重ねが視聴者の信頼につながるのだから、このニュースは組織に貢献しているのではないか。
 特ダネに価値があることは誰も否定できないので表彰されることになった。報道部門で一番トップの賞は報道局長賞。このニュースを出させまいとした人の名前で賞が出たという皮肉なことが起きて、さらにその報道局長賞が出たほぼ同じ時期に、記者を辞めさせると言われた。そういう流れで物事が進行して、結局、自分からNHKを辞め、今に至っている。
(つづく)

NHKのスクープ記者に何が起きたのか2

 オーストラリアの旅から。
 滞在中、総選挙があった。政権交代確実という予想をうらぎって、与党の保守連合が勝利し続投となったのだが、選挙の争点に驚いた。2位の「経済」を上回って「気候変動」が第一の争点だったのだ。Climate Change(気候変動)に対してどんな有効な政策を提示できるのかとテレビで議論しているのを見ると、「進んでるな」と思わざるを得ない。実際、国民の「環境」への意識は非常に高い。ストローは紙製だし、テイクアウトの食べ物の容器は紙、フォークやスプーンは木でできていた。
 オーストラリアは人口密度が低く、広大な手つかずの土地が広がるのに、環境保護の意識が高いのは、かなり啓蒙が行き届いているのだろう。商業捕鯨に強く反対しているのもその延長だろうと解釈した。

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オオルリアゲハ。この青が普通の青ではなく、深く、輝くような色合いだった。

 珍しい蝶を目撃した。ユリシス(和名オオルリアゲハ)という大きな蝶で、羽が開閉するたびに青色がキラキラ光るように目に飛び込んでくるのが幻想的である。オーストラリアでは北東部クイーンズランドにしかいないという。私は取材で山奥に入ったので4~5回は見る機会があった。この蝶を見た人は幸運が訪れるというが・・
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 (相澤冬樹さんの講演続き)


 森友事件の本質は国有地の値引きだ。8億円も大きく値引いて売った。国に損害を与える。背任だ。なぜそんなことをやったのかが焦点だが、財務省はこれは正当な値引きで間違っていないと、今でもそう言い張っている。
 ところが、この土地の売買交渉の過程で、近畿財務局の方から森友学園に対して「上限いくらまでなら出せますか」と聞いていた事実が判明した。これはとてもおかしな話だ。買う方が「うちはここまでしか出せませんから何とかしてください」と言うのなら分かるが、売る方はなるべく高く売りたい立場だ。国有地で、売り急がないといけない理由は何もない。上限額を聞く必要は本来ないはずなのに聞いている。
 聞かれた森友学園側は「1億6千万円までなら出せる」と答えた。それに対して財務局の人間が、「その範囲で収まるといいですね」と言っている。この文脈で、「その範囲で収まるといい」と言うのは、「その範囲に収まるようにします」と言っているのと同じ意味になる。現実に2か月後に売買価格が提示されるが、1億3400万円で見事に「範囲」に収まっている。
 一連の経緯を見れば、国が森友学園の都合に合わせて、不当に値引きして値段を決めたということがよくわかる。つまり背任行為そのものだ。だから、上限額を聞いたという事実はニュース価値がある。
 これを夜の「ニュース7」で、全国ニュースで放送した。放送したら、3時間後に東京の報道局長(全国のNHKの報道部門を束ねるトップ)が、私の上司である大阪の報道部長の携帯に電話してきた。なぜ私が知っているかというと、たまたま報道部長が私の目の前にいるときにその電話がかかってきた。そしてその電話口で「どうしてこんなことをしたんだ。おれは聞いてないぞ!」と怒鳴っている声が聞こえてくる。そのくらいの大声で激怒している。
 そのやりとりがずっと続いて、電話が切れるときに、報道局長が報道部長に言った最後の捨て台詞が「あなたの将来はないと思え」だった。
 でも報道部長は、このニュース原稿に直接タッチしていない。部長はいちいち原稿にタッチしない。その部長の「将来がない」というのだから、その原稿を書いた私の将来はもっとないということになる。(会場笑)

     そのときに、「次の人事異動ではきっと何か嫌なことがあるな」と予感がした。そのあと、実際いろんなことがあった。
 「あなたの将来はないと思え」などという露骨な、人事を使った圧力というのは、それまで見たことがなかった。びっくりした。こんなこと、ほんとにあるんだな。そこまでしてこのニュースを出させたくなかったのか、と。


 でもちょっとおかしいことがある。もしニュースを見て激怒したのなら、直後に電話してくるはずだ。ニュースが終わった直後に、何でこんなニュースを出したんだ!と。だが電話は3時間後だった。3時間のタイムラグ、これは何なんだ。
 ここからは想像だが、局長が自分でニュースを見て怒ったんじゃないな。後から誰かに言われて、「何であんなの出したんだ、これじゃ財務省は背任でやったことになるじゃないか、ばれちゃうじゃないか」と怒られたんだな。報道局長は、NHK報道部門のトップだから、それより偉い人はいない。理事とかは別にして。だから、たぶん「外部の人」だな。外部の人で彼にそんなことを言うのは「官邸の人」だな。官邸の圧力で起きたんだなと思う。
 そして去年4月の「事件」が起きた。
(つづく)

NHKのスクープ記者に何が起きたのか

 オーストラリアの旅から。

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 大陸北西部ケアンズの南150㌔の田舎町、泊ったモテルのそばの海岸に「サイクロンYASI(ヤシ)」の記念碑があった。2011年2月はじめにこの地に大きな被害をもたらしたという。その1か月後に日本に大津波があったことは忘れられないと地元の人はいう。
 そのサイクロン被害の後、広大な敷地に立派な建物を備えた「サイクロンシェルター」が作られた。いざというとき、ここに避難して生活できる施設である。ちなみにサイクロンヤシではインフラや船舶、建物などに大きな被害が出たが、犠牲者は1人だけ。それでもこれだけの備えをしている。

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サイクロンシェルター。通りかかったときに車の窓から撮ったので、うまく写っていないが、この右側にも大きな建物がある

 ひるがえって日本ではどうか。311の教訓から住民避難の抜本的な対策が採られたのか。今でも豪雨などの災害では、被災者は学校の体育館にざこ寝させられているのが現状だ。
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 25日(土)。武蔵野スイングホールで相澤冬樹さんの講演会があった。森友学園の問題でスクープを連発したためにNHKから事実上追い出された記者だ。開演20分前に行ったら入り口に長蛇の列。180人の席が予約で埋まり、キャンセル待ちの当日券に並んでいるのだった。私は列の前の方だったので、ギリギリで入れたが、ジャーナリズムを考えるこうした催しにこれほど多くの人が関心を持つのかと驚き、うれしく思った。

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 4月の統一地方選挙で、「NHKから国民を守る党」という政党が、50人近い候補者を立て、なんと26人もの当選者を出した。これはあまり報じられていないが(NHKはニュースでこの党名を言えるか?)、NHKの現状に多くの人が関心を持っていることを示す。(この党にはいろいろ問題があるらしいが)https://www.j-cast.com/2019/04/22355950.html

 相澤さんの話は、私の仕事に関係することもあって、とても興味深いものだった。今のNHKがどうなっているのかを知るうえで、また森友事件とは何だったのかのまとめとしてもおもしろいと思うので、講演の一部を紹介したい。

    なお、相澤さんについては、去年10月2日のこのブログで触れた。

takase.hatenablog.jp

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 私はNHKに31年間いたが「圧力」を感じたことはなかった。ほんとうに「圧力」を感じたのは森友事件のときだ。
 その前、安保法制の反対運動が盛り上がっていた時にも「圧力」はあったようだ。次期専務理事に返り咲いた板野さん(注)が報道局長をやったときで、彼の圧力で報道がほとんどできなかったと担当者には聞いたが、自分とは関係ない部署だった。
(注:https://mainichi.jp/articles/20190408/k00/00m/040/258000c

 

 では森友事件のとき何が起きたのか。

    発端は、一昨年の2月8日に豊中市の市会議員、木村真(まこと)さんが情報公開を求める裁判を起こして会見を開いたことだった。森友学園に対して近畿財務局が売った土地の代金が公開されない。他の国有地の売買は全部公開されているのに、ここだけ公開されないのはおかしいと裁判を起こした。
 たしかにおかしいが、それだけだと大きなニュースにはならない。でも、この小学校の名誉校長が安倍昭恵さんだとわかった。首相夫人が名誉校長やってる学校の土地だけ値段が公開されない。何かある、と思わない人はいない。
 この土地だけ公開されないということと、名誉校長が安倍昭恵さんだということは間違いなく事実。それだけ書けば、そのニュースを見た人は分かる。
 まず、原稿の冒頭、リードという部分で書いた。視聴者はリードを見てそのニュースを見ようと思うわけだから、一番目立つ冒頭に書かなければならない。本文にも書いた。末尾にも木村さんの会見を引用して書いた。だから原稿には3回、安倍昭恵さんが名誉校長だというのが出てくるのだが、それが削られてしまった。
 記者が書いた原稿はデスクがチェックして、手直しして放送できる状態にする。その段階で、リードや本文にある安倍昭恵さんを消してしまった。とくに理由があるわけではなく、単に、いきなり安倍昭恵名誉校長なんて書くのはちょっと・・・という忖度(そんたく)だ。上の人から「書くな」と言われたわけではない。現場のデスクの判断で、通してしまうと自分の責任になるからと削ってしまった。ところが最後の記者会見のカギかっこに入っている「安倍昭恵さん」は残っている。
 つまり、なるべく目立たないように、リードや本文の安倍昭恵は消した。しかし、カギかっこの中の安倍昭恵は、地の文ではなく、記者会見した木村誠さんが言っていることとして出す。それを残せば、「全く放送していないわけではない」という言い訳にできる。全く放送しなかったら、隠したと言われるが、「いやいや、ちゃんとあります」と言えるという、実に上手というか、ずるいやり方で原稿になった。
 そして放送されたが、全国放送ではなく夕方の関西向けのニュースにしか出なかった。安倍昭恵名誉校長ということで、絶対に政治問題になるのだから、東京に送って全国放送にしなければダメだとずっと言っていたが、全国放送にはならなかった。私の担当デスクによると、東京に一応声をかけたのだが、東京はいらない、大阪で勝手にやってくれと言われたという。全国放送でやるとすごく目立ってしまう、関西でやるぶんには大阪の判断で、自分は知らないと言える、うまい責任逃れだ。
 「責任」といっても、出したから責任を問われるというわけではないのだが、なんとなく、こういうものに関わりたくないという「空気」が働いたということだ。ただ、これは上から具体的に圧力があったという話ではないので、まさに忖度レベルの話なのだが、次に起きたことが、いよいよ「圧力」の話になってくる。
(つづく)